新型コロナウイルスのオミクロン株により感染者が過去にないペースで増えるにつれ、濃厚接触者の急増も問題になっている。2月には東京都民の10人に1人が濃厚接触者になるとの試算もあり、社会機能が麻痺する恐れもある。政府は隔離期間の短縮など基準緩和策を打ち出すが、それでも海外より基準は厳しく、このままでは国民の大半が濃厚接触者になるリスクも否定できない。
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政策研究大学院大学の土谷隆教授(統計数理学)は、新規陽性者が行政発表の20倍近く存在すると仮定し、2月に東京都の新規陽性者が3万人を超えた場合、ピーク時の待機濃厚接触者は約140万人に及ぶとの試算を出した。単純計算で東京の人口の10分の1に相当する。
現行制度では、濃厚接触者は、最初に感染者と接触のあった日の翌日から10日間の自宅待機を求めている。
医療従事者については待機期間中でも毎日検査で陰性なら出勤できる特例措置を適用している。また、社会機能維持に必要なエッセンシャルワーカーについて、後藤茂之厚労相は23日のNHK番組で、待機6日目の検査で陰性なら解除できる待機期間を、必要ならさらに短縮を検討する考えを示した。
試算を出した土谷氏は「社会の混乱や保健所の負担増を避けるため、濃厚接触者の特定や追跡をあきらめるべきではないか。行政が把握できない陽性者も多いとみられる中、感染対策の意味も薄れてきている。その分、保健所はモニタリング検査などに注力すべきだ」と指摘した。
米国ではすでに昨年12月、無症状感染者と、感染者との接触者の隔離期間について10日間から5日間に変更している。
「濃厚接触者」の概念の見直しも視野に入れるべきだとの声もある。
東北大災害科学国際研究所の児玉栄一教授(災害感染症学)は、「政府は感染症法上の『5類』引き下げに踏み切れないため、当面は隔離期間で対策を調整せざるをえないのだろう。しかし、隔離期間経過後に発症する可能性は否めず、大幅に短縮するくらいなら、そもそも隔離不要との意見もある。オミクロン株はインフルエンザ相当といわれる中、濃厚接触者という概念自体を不要にする議論はありうる」と話す。
感染への不安感などから無料のPCR検査所には長蛇の列ができ、検査キットの不足も懸念されている。
前出の児玉氏は「やみくもな検査が急増すれば、発症者やその濃厚接触者、そして疑い者への検査を優先できなくなる可能性もある。感染の可能性の低い集団を対象にするので効率もよくない。オミクロン株の感染は早晩収束するという見立てもあるが、1日10万人のレベルになれば、国民の大半が濃厚接触者になるリスクも否めない」との見方を示した。