暴れる患者、家族 医療従事者に向けられる凶行

埼玉県ふじみ野市の立てこもり事件では、殺人容疑で送検された渡辺宏容疑者(66)が、前日に亡くなった母親の治療方針をめぐり、殺害された医師の鈴木純一さん(44)だけでなく複数の医療機関とトラブルになっていたことが分かっている。昨年12月には大阪市北区のクリニックで放火殺人事件も発生。患者やその家族が医療関係者を狙い凶行に及ぶケースが相次いでいる。救命現場での「院内暴力」。なくすことはできないのか。
今回事件を起こした渡辺容疑者は「自殺しようと思い、自分だけではなく医師やクリニックの人を殺そうと考えた」と供述。大阪市のクリニックで25人が死亡した放火事件でも患者の谷本盛雄容疑者(61)=死亡=が他人を巻き込む「拡大自殺」を計画したとみられている。
患者やその家族が医師や看護師らの対応に不満を持ち、病院の内外で暴力を振るう事件は後を絶たない。医療関係者はその背景として「病院が不都合なことを隠しているのではないかと、患者が不信感を抱きやすい」と指摘する。
全国の病院が加盟する日本病院会の調査で、約50年間に病院で起きた火災102件の出火原因のうち、放火が33件で最多。東京都八王子市では平成26年、患者の男が10階建て病院の4~8階に発炎筒やガソリン入りのペットボトルなどを投げる放火未遂事件も起きた。入院患者がいたが、避難し無事だった。
事件に発展しない暴力行為も多い。日本看護協会の令和元年の調査では、病院に勤務する看護師約1万5千人のうち、約6分の1の2476人が患者から蹴られる、物を投げつけられるといった「身体的な攻撃」を受けたことがあると回答した。
「正当な事由がなければ診療を拒んではならない」とする応召義務がある医師。危険を感じつつも患者に対応する医師も多くいるとみられるが、クレーマー問題に詳しい咲くやこの花法律事務所(大阪市西区)の西川暢春弁護士は、「暴力は犯罪で、診療を拒否できる『正当な事由』にあたる」と話した。
警視庁OBで東京慈恵会医科大付属病院でクレーム対応の経験がある横内昭光さんは、医師の説明が理解できなかったり、患者が自分の症状を十分伝えられなかったと感じたりすることが不満につながると指摘。「患者に丁寧にやさしい言葉で説明することが大切だ」とする。一方で、話しても理解してもらえる相手ばかりとは限らず悪質なクレーマーもいる。医療関係者が身の危険を感じた場合は「警察に相談してほしい」と訴えた。(橘川玲奈)