法制審議会の親子法制部会が1日にとりまとめた要綱案は、明治時代から変わらぬ民法の「嫡出推定」の規定を見直すとした。女性の再婚禁止期間も廃止されるが、見直しの目的は「無戸籍の子」の問題解消など、あくまで子の地位の安定を図ること。授かり婚などによる子供であったとしても現実に即した形で、子の父が誰であるかを速やかに推定することを前提とした。
無戸籍の子が問題となりやすいのは、離婚成立直後や離婚協議が長期間に及ぶ間に、女性が前夫や夫と別の男性との子を出産したケースだ。DV(ドメスティックバイオレンス)などで関係が破綻した夫(前夫)の戸籍に子が入るのを心情面から避けるため、出生届を出さない事例が相次いでいる。
法務省によると、今年1月時点で判明している無戸籍者は825人。そのうち72%にあたる591人が、意に反した嫡出推定を避けていることが原因だった。
親の事情で無戸籍となった子供は住民票の作成やパスポートの発給、銀行口座の開設なども困難となる。一昨年9月には、大阪府高石市で無戸籍の女性が餓死。同じく無戸籍で同居していた50代の息子は行政への相談をためらうなどし、これまで学校に通ったこともなかったという。こうした無戸籍の子の問題は15年前ごろから社会問題化。国会でも取り上げられ、嫡出推定の見直しの議論が加速する契機となった。
要綱案では、婚姻前に妊娠する「授かり婚」や離婚から300日以内に生まれた子であっても、母の結婚や再婚後に生まれれば、現夫が父親として優先される。再婚せずに産んだ子はこれまで同様、「離婚後300日規定」で前夫の子とされるが、要綱案では父だけでなく、母から「嫡出否認」を提起できるようになることで救済を図った。
だが、母側が嫡出否認を提起してもDNA鑑定で前夫の検体が必要となるケースがあるなど、DV被害者らにとってハードルは残る。法制審では「離婚後300日規定」自体を廃止すべきとの意見もあったが、法務省の担当者は「この規定をなくせば、その間に生まれた子は推定される父親がいなくなる。子の地位が不安定となり、部会では廃止に賛同する意見はほとんどなかった」とする。
また、現在の嫡出推定をめぐっては「戸籍に記載されない子供がいるのは不倫や不貞の結果」「親の責任」との意見も根強くあるが、法務省幹部は無戸籍の子の問題を念頭に「法制審では生まれてくる子に罪はないという大前提で議論が進んだ」とし、「今回の見直しは、不貞行為などの是非とは全くの別の問題」と話した。
法務省が平成26年~28年に行った調査では、離婚後300日以内で、かつ母親の再婚後200日以内に生まれた子供の実に96・6%が新たな夫との間の子供だった。現行法のままでは、これらの子は裁判などの手続きを踏まなければ、前夫の子と推定されてきており、長期間、現実とのずれが放置されていたとの指摘もある。
「民法772条による無戸籍児家族の会」の井戸まさえ代表(56)は「要綱案は一歩前進だが、これだけ離婚や再婚が一般化した中で、実態と合わない状況が放置されていた。子供の権利を考えても、あまりにも遅すぎる一歩だ」と指摘した。(桑波田仰太)