小学生6人死亡事故を芸術で表現「奪われた日常感じて」

登校中の小学生6人がクレーン車にはねられ死亡した、平成23年に栃木県鹿沼市で起きた事故を題材とした芸術作品がある。制作には遺族も協力。野球の練習に励んだり、家の中で遊んだりする事故前の何げない日常が、絵で表現されている。遺族は「当たり前だった生活を全て奪われたことを感じてほしい」と作品が事故撲滅につながることを願っている。(野々山暢)
三重県伊勢市出身の画家、弓指(ゆみさし)寛治さん(33)が愛知県で開催中の国際芸術祭「あいちトリエンナーレ2019」に出展している「輝けるこども」。遺族の話や写真を基に小学4~6年で命を奪われた児童6人の姿を再現。肖像画や、6人が好きだったものなどが描かれている。
事故で小学6年だった熊野愛斗(まなと)君=当時(11)=を亡くした父、正則さん(50)は「細部まで事実を知った上で制作してほしい」と全面的に協力。6月には弓指さんとともに通学路を歩き、発生から約8年で、初めて事故現場にも足を運んだ。
思い出すたびに後悔が募る出来事がある。ある日の夕方、自宅近くで愛斗君がほかの児童らと一緒にいるのを見かけた。愛斗君は何かを訴えかける目で正則さんを見たが、遊んでいるだけと思い、そのまま立ち去った。後に愛斗君はけんかの仲裁をしていたところだったと知った。
「助けてほしくて自分を見ていたのではないか。もっと愛斗にしてあげられたことがあったのではないか」。連鎖するように次々と後悔が浮かび、罪悪感にさいなまれる。「事故によってごく普通の日常がすべて悲しみやつらさに変わってしまった」。通学路を歩きながら、弓指さんにこの出来事も語り、愛斗君がけんかを止めようとする様子も作品の一つとなった。
詩が好きだった愛斗君。ノートに書いた肉筆をそのまま写した詩も4つ展示されている。そのうちの一つの題は「償い」。
《つぐないならいっしょうけんめい、いきぬいたそのさきですればいい》
罪悪感や後悔に押しつぶされそうになった正則さんにとって「少し気持ちが落ち着き、助けてもらった詩」だ。
9月8日、正則さんは会場を訪れ、弓指さんから一つ一つの絵に込めた思いの説明を受けながら鑑賞した。鑑賞後、「愛斗が生きた11年、笑ったり、悲しんだり、いろいろな出来事を思い出した。同時に失ったものの大きさも思い返された。多くの人に作品を見てもらい、事故抑止につながってほしい」と話した。
■制作者「自分が加害者になる可能性も考えて」
制作した弓指さんの母親は平成27年、55歳で自殺した。約3カ月前に交通事故に遭ってリハビリを始めたが、仕事ができなくなり、体にも違和感を覚えて精神的に不安定になっていた母親を毎日、励ましていた最中だった。
事故前は女手一つで子供3人を育て、ピアノ教室で子供たちを教えたり、高齢者福祉施設で音楽を使ったリハビリにも携わったりしていた。「自殺したことで、母親のすべてが否定されるものではない」。芸術の勉強中だった弓指さんは、母親の死を隠すことなく、むしろ「死」や「交通事故」をテーマに制作することを決めた。
そんな中、クレーン車事故の遺族が出版した手記「あの日」を手にし、テーマにすることとした。
「輝けるこども」は被害者だけでなく、「明日、自分が加害者になってしまうかもしれないことも考えてほしい」と加害者からの視点も作品に取り入れ、裁判資料などを基に持病がありながらクレーン車を選んだ運転手の供述なども紹介している。
さまざまな視点から事故を問う作品にSNSでは《ハンドルを握る気持ちが変わった》《自動車産業に関わる人にはぜひ観てもらいたい》などのコメントが相次いでいる。10月14日まで。祝日を除く月曜日は休館。

栃木クレーン車事故 栃木県鹿沼市で平成23年4月18日朝、集団登校の列にクレーン車が突っ込み、4~6年生の計6人が犠牲になった。運転手はてんかんの持病があり、医師から忠告されていたにもかかわらず、運転免許を取得していた。当時は病気で正常な運転ができない恐れがある状態で運転しても、危険運転致死罪の対象とはならず、自動車運転過失致死罪で懲役7年が確定。遺族側は法改正を求める署名約20万人分を国に提出し、病気の影響が危険運転の要件に加わるなど制度改正のきっかけとなった。