「隔離ガチャ」という言葉がある。厚生労働省検疫所業務課に、「そういった言葉があることを知っていますか?」と尋ねると、次のような答えが返ってきた。
「名前は聞いたことがあります。施設によって、ランクのようなものが出てきてしまっているというのは、現状として認識しています。出来る限り、待機されている方には、同じ対応ができるようにしたいのですが」
2月11日現在、水際対策強化に基づき、オミクロン株が支配的となっている国・地域から日本へ帰国(入国)する人に対して、宿泊施設で待機することが定められている。渡航先の国によって、3日間、6日間、10日間の隔離措置が設けられ、その後、自宅などで待機をする流れとなる。
宿泊施設へは、帰国後、空港での検査を経て、スタッフの指示に従う形で向かうことになるのだが、行き先は現地に到着するまでわからない。ある者はホテルやビジネスホテルへ、またある者は――。(全2回の前編/ 後編を読む )
◆◆◆
「私は当たりだった」、「俺はハズレだった」……そんな感想が帰国者の間で飛び交い、「隔離ガチャ」なる言葉は、海外から戻ってくる者の間でちょっとした関心事になっている。
滞在し隔離される宿泊施設によって、部屋のサイズや朝昼晩の食事、ないしは設備も変わってくる。到着するまで、自分がどんな施設に振り分けられるかわからない。ゆえに、「隔離ガチャ」。
一時期、羽田空港や成田空港に到着した帰国者が、関東圏の宿泊施設に空きがないことから大阪や仙台などに遠征隔離されるケースが話題を集めた。隔離される場所や所要時間が異なるだけではなく、実は隔離先によって食事内容もバラバラだったりする。環境の差が大きいため、人によっては疲弊してしまうケースも散見しているという。
こうした噂を耳にはしていたが、実際にどのような点がガチャ的なのかは、身をもって体験しなければわからない。渡航したのだから、隔離されるのは当然のこと。この状況下に海外へ行くこと自体がリスキーなわけで、帰国後の隔離で済むなら御の字だ。
筆者が体験した「隔離ガチャ」
そう他人事に感じていたのだが、筆者自ら「隔離ガチャ」を体験することになるとは思いもしなかった。
いざ体験してみた隔離措置は、たしかに“人によって当たり、ハズレが変わる”ガチャ的なシステムであり、解放後の動線にいたっては、なんともツッコミどころの多い対応であることがわかった。最前線で対応してくれるスタッフは一生懸命なのだが、構造として水漏れが生じている、そんな違和感が拭えないのだ。
手順を追って綴っていこうと思うが、まず帰国時の状況から説明したい。
筆者は、プライベートではなく仕事のために渡航した。現地当局が仲介をする形で、私を含む5名で渡航し、1月下旬にドーハ経由で成田空港へと帰国。現地出国前にPCR検査を行い、陰性の結果を受けて帰着した。余談だが、海外滞在中に、自分たちの渡航先が隔離措置対応地域に組み込まれることが発表されたため、出発時点では「隔離されずに帰宅できる」という設定だった。そのため、帰国後の宿泊施設待機は想定外のスケジュールだった。
また、渡航することに少なからず後ろめたさを感じる一方、仕事でなければ海外に行くことはできない……貴重な機会だと感じていたことも、正直に付記しておきたい。
「(隔離先は)どこになりそうですか?」と尋ねると…
帰国すると、人間ドックのように「次はあちらへ向かってください」と誘導され、好き勝手に空港内を移動することはできなくなる。筆者の施設隔離は3日間。到着ロビーは、隔離への搭乗ゲートだと思ってほしい。
PCR検査のほか、入国者の健康管理を把握するアプリのインストール、書類提出に伴う各種質問対応、検査結果までの待機などなど、一連の手続きが完了するまでに約4時間。陰性という通行手形を取得するまで、相当な時間を要する。この間、自分がどこの宿泊施設に滞在するかは、まったくわからない。「どこになりそうですか?」と聞いても、「空いているところになりますのでわかりません」とはぐらかされる。
「バスが到着しました」
午後10時すぎ。スタッフの誘導に従い、10名ほどの帰国陰性者がバスに乗り込むも、いまだ行き先は告げられない。なお、隔離のための宿泊施設だが、意外なことにググると結構な情報がヒットする。
千葉県は、千葉県庁のホームページ内で「宿泊施設の入退室状況」を随時更新し、東横インやアパホテルといった大手ビジネスホテルもホームページ上で、一棟貸出の報告を掲載している。そのためバスの移動中、スマホのマップ機能を確認することで、なんとなく自分が滞在する施設の予測を行うことはできる。
筆者らを乗せたバスは、京葉ジャンクションを松戸方面に向けて北上(東京方面の可能性はなくなったと解釈していいだろう)。三郷ジャンクションを西進。それを受け、皆が「さいたま市周辺のホテルか」と悟ったような顔をしていた。
ところが――。バスは、美女木ジャンクションを北上しない。動揺した。さいたま市をスルー……このまま進むと、大泉ジャンクションからの関越道である。関東脱出の隔離? 乗客全員の顔が、心なしか紅潮している。まったく知らない帰国者と目が合い、彼もまた「どこへ」という不安が、そのまま顔に表れていた。そりゃそうだ。成田空港からジャンクションを6つも越えているのだ。しかも、バスにはトイレがない。行き先がわからないだけに、その点も不安材料だった。
ようやく施設に到着、そこにあったのは
不意にバスは高速を下り、しばらくして大きな敷地内に停車した。和光市。降車すると、「税務大学校 若松寮」と書かれていた。ビジネスホテルではない、10階建ての団地風の建物。真夜中、目の前に突如現れたぬぼーっとした外観に、隔離=ホテルと思っていた私をはじめとした帰国者は、戸惑っていた。
スタッフが淡々と説明をする。
「いまから皆さんには、ここに“入所”していただきます」
税務大学校でのルールは、ざっくりとだがまとめると以下になる。
・部屋から出てはいけない(ランドリーを使用する場合などは除く)
・飲酒禁止
・禁煙
・提供される食事は朝昼晩の3回
・家族、友人などからの差し入れ可。また、Uber Eatsの利用も可能
・ポケットWi-Fiの支給あり
・何かある際はコールセンターに電話する
「おとなしく部屋にいてください」というわけだが、Uber Eatsの利用許可には驚いた(ただし、現金決済は不可)。生ものや温かいものなどは頼むことはできない。仮に頼んだとしても、階下で没収されてしまう。いずれにしても、必要なものを自分で手配できるのはありがたい。
部屋の間取りは、ユニットバス付きの6畳ほどの1K。また、アメニティは、バスタオル、タオル、テレビ、ドライヤー、電気ケトル、歯ブラシ、シャンプー、石鹸、ミネラルウォーターなどが置かれている。パジャマやカミソリはないので、渡航者はその点を考慮して荷造りをした方がいいだろう。
翌朝、我々がお世話になっている宿泊施設の全体像を認識する。税務大学校の学寮棟は4棟あるようで、それぞれに「〇〇寮」という名前があるらしい。和光市のホームページを見ると、一時待機施設として、昨年12月上旬から「税務大学校」「国立保健医療科学院」「司法研修所」の3施設を開放したことが説明されていた。
隔離先=ホテルというイメージが先行しているが、ネットで調べると宿泊先としての“和光行き”は、今ではオーソドックスな受け入れ先の1つとして認識されているようだった。スタッフの皆さんも実直で、一生懸命対応してくれる様子だった。こうした対応があるからこそ、安心して帰国できることを忘れてはいけないだろう。空港スタッフ同様、24時間体制である。
たった3日間。隔離の身であるから、贅沢など望まない――。
そう思っていたのだが、入所2日目にしてガチャの内情を知ることになる。筆者の他に4名の同行者がいたと上記したが、2人の宿泊状況などを知れば知るほど驚きを禁じ得なかった。
他の人たちの宿泊状況はいかに
彼らは、1日違いの別便で帰国する行程だったため、昨夜到着した我々一行とは違う施設に入所したという。1人は、江東区のアパホテルへ。もう1人は、同じ和光市にある国立保健医療科学院へ。アパホテルに入所したA氏から、室内の写真が送られてきた。
広々としたツインルーム。入所というよりは、“入室”である。続けてA氏は、「加湿器もある~!」と興奮気味にLINEを送ってきた。私は、「これが隔離ガチャか」と理解した。
国立保健医療科学院は、どうだろう? スマホのマップを見ると、ほぼお隣さんに位置している。調べると、似たような構造であることもわかった。国立保健医療科学院のB氏から、画像が送られてくる――。
税務大学校と同じく1Kの間取り。国立保健医療科学院の方がやや開放感があるが、ほとんど内観は変わらない。「A氏のツインルームがうらやましい」という正直な気持ちはあったが、税務大学校と国立保健医療科学院にはベランダがある(ただし、ベランダには出てはいけない)。ホテルよりも窓を開放できるため、心地よい風が入ってくるのは、我々の利点だろう。住めば都である。
隔離ガチャを生み出す「好みの問題」
ところが、隔離ガチャの“差異”は、間取りだけではなかった。食事が、人によっては、“当たり”“ハズレ”の基準になる可能性を秘めていることもわかったのだ。
たとえば、筆者滞在中に税務大学校の夕食として配膳されたのは、「鳥丼」や「かつ丼」といったがっつり系だった。
かつ丼にいたっては全体に茶色くステップ気候と見まがえたが、ありがたい気持ちに変わりはない。食が細い人にとっては、こういった弁当をハズレと判断するかもしれないが、肉が好きな人にとっては当たりとなる。
しばらくして、A氏とB氏からアパホテルの夕食、国立保健医療科学院の夕食の情報が届いた。
アパホテルの夕食は、牛肉とトマトの炒め物、ボイル野菜、紅茶鴨の燻製と野菜のマリネなどおかずが豊富で、デザートにはロールケーキが付いている。国立保健医療科学院の夕食は、酢豚、春雨サラダ、ごま団子などが入った中華風の弁当だった。あくまで個人の感想だが、まぶしかった。
なお、このような差異は、朝食、昼食も同様だ。朝食を比較すると、税務大学校は菓子パンと野菜フルーツジュース。アパホテルはホットドッグや卵焼き、カットフルーツからなる弁当。国立保健医療科学院は、おにぎり弁当。他2施設に、盛り付けという概念があるのに対して、税務大学校 3日間の朝食は、いずれも菓子パンだったため、欲を言えばサラダ的なものは添えてほしかった。
モヤモヤする気持ちを解消してくれたもの
人に好みがある以上、どうしても隣の芝生は青く見えてしまう。隔離中の「〇〇が欲しい」は高望みにもほどがあると自覚はしているものの、全員がレギュレーションに則り、きちんと陰性結果を受けて隔離施設に入所する以上、そこに明確な差を感じることは少し悲しかった。そうしたモヤモヤを解消するという意味で、Uber Eatsの利用が認められているのではないかと思う。
食のバランスを考慮した筆者は、実際にUber Eatsを使用してみた。「1日分のビタミン(ゼリー)」「のむヨーグルト」などを購入。必要な栄養素を補填できるだけでなく、公平感を自らにプレゼントできるという意味でも、施設隔離が義務付けられている間に渡航する予定がある人は、Uber Eatsのインストールをおすすめしたい。家族、友人などからの差し入れ、そしてUber Eatsの利用にGOサインを出してくれた偉い人、ありがとう。
それにしても、どうしてこのような差異が生じてしまうのか? 疑問に感じた筆者は、施設内のスタッフや 厚生労働省検疫所業務課に話を聞いてみることにした――。
( 後編へ続く )
「隔離ガチャ」アタリ・ハズレはなぜ生じる? 厚労省に尋ねてみると…コロナ禍での帰国者が抱いた「違和感」の正体 へ続く
(我妻 弘崇)