ロシアによるウクライナ侵攻で、両軍の激しい攻防が続く中、静岡県内のウクライナ出身者も不安の日々を過ごしている。静岡大浜松キャンパス大学院の光医工学研究科で学術研究員をしているボロディメル・グナチュークさん(58)は「毎日、家族、親戚、友達、そして、町を心配している」と語った。(貞広慎太朗)
首都キエフには、妻(56)と2人の息子が住んでいる。連絡は取れているが、身動きが取れない状況が続いているという。「ロシア兵が各地に点在している。『気をつけて家にとどまり続けて』としか言えない」ともどかしさを語る。
グナチュークさんのもとには、ニュースサイトや地元の友人から戦地の動画が次々と送られてくる。銃撃戦で血を流し倒れたまま動かない兵士、ウクライナ軍に捕らえられた若いロシア兵、爆音とともに撃ち落とされる航空機、市街戦に備え火炎瓶を準備する市民――。「恐ろしい」と言葉を詰まらせる。
静岡大の客員教授などとして長年、日本で放射線の研究を続けてきた。キエフに帰ったのは3年前の2019年3月が最後。色鮮やかで歴史のある教会が立ち並ぶ美しい街の景色が誇りだ。
そんな故郷で今、惨劇におびえた市民らがシェルターや自宅に身を隠しながら過ごしている。グナチュークさんの自宅から500メートルほどしか離れていない高層アパートではミサイルが着弾し、一部がえぐれた。幼稚園や病院にも被害が相次いでいるという。
ウクライナ全土に対し、ロシアが無差別に攻撃してくることを懸念する。「ロシアは次から次へと兵を送ってくる。子どもたちも兵隊となっているくらいだ」と悲痛な思いを口にした。激しい戦闘の中で、民間人がウクライナ軍に加わり、銃を構える動画も目にした。32歳と28歳の息子も軍の招集がかかれば、「行くしかないだろう」と心配は尽きない。
ロシアとウクライナによる停戦協議も、その先行きは不透明だ。「プーチン(ロシア大統領)が交渉に合意するまで、ウクライナ兵が町を守り抜いてほしい」と願う。
緊張が高まるキエフにいる妻子が無事とわかるのは、連絡が取れたその瞬間だけ。明日の安否がわからない状況が続いている。
グナチュークさんは嘆く。「第二次世界大戦以降、最も大きな戦争だ。歴史は今、繰り返されている」