名張毒ぶどう酒事件 異議棄却、「区切り」願う地元住民の複雑な胸中

名張毒ぶどう酒事件(1961年3月)で、2015年に89歳で獄中死した奥西勝元死刑囚の妹が申し立てた第10次再審請求棄却の異議を巡り、名古屋高裁は3日、異議を棄却した。弁護団は再審開始に期待をしていたが、また再審の扉は開かなかった。
名古屋高裁が棄却の決定を出した午前10時半、事件の舞台となった名張市葛尾地区には住民の姿はなく、いつも通りの静けさに包まれていた。当時、地区の懇親会でぶどう酒を飲んだ女性5人が死亡したが、命を取り留めた女性もそのほとんどが既に他界している。
事件当時は4歳で、両親も懇親会に参加したが、母親が酒を飲めなかったため被害には遭わなかったという葛尾区長の南田耕一さん(65)は「奥西元死刑囚の妹は、兄が犯人ではないと信じ、つらい過去があったと思いますが、区長としては住民を守り、遺族らが前向きに進めていく責任がある」と複雑な胸のうちを語る。「この60年間、司法に振り回され、住民も昔の嫌なことを思い出させるので、早く区切りをつけてもらいたい」と願っていた。
母親が懇親会に参加し、1カ月ほど入院したという隣接する奈良県山添村葛尾の今井眞一さん(75)は「奥西元死刑囚が既に亡くなり、もう終わったものだと思っていた。長引く裁判も棄却を区切りに、きりを付けてほしい」と話した。今井さんは「現場の公民館はすさまじかったのを、今も覚えている。公民館の外の水飲み場で倒れている女性もいた。今のように携帯電話がない時代、救急車を呼ぶのに大変だった。苦しむ女性が多かった。母親は当時、会話ができていたのを覚えているが、その後、事件については話すことはなかった」と語った。【行方一男】