盛り土「底なし沼。大変なことに…」 住民証言 熱海土石流8カ月

3月3日は静岡県熱海市伊豆山地区で2021年7月に起きた土石流災害から8カ月の節目となる。この日は県内でさまざまな動きがあった。
原因を究明する熱海市議会の調査特別委員会(百条委員会)の第1回参考人招致があり、参考人の一人で住民団体幹部は07年、小田原市の不動産会社(前所有者)が盛り土した現地で「履いていた運動靴が溶けた」と述べ、盛り土に有害物質が含まれていた可能性を示唆。別の参考人からは行政や警察の不作為を批判するような発言も出た。【太田圭介、梁川淑広】
参考人として招致されたのは、伊豆山地区の住民団体幹部と地元住民、産業廃棄物の不法投棄問題に絡んで伊豆山地区を取材したジャーナリスト、土石流発生地の前所有者と現所有者(東京都の企業グループ前会長)との土地売買を仲介した不動産会社元代表らの計5人。匿名報道を条件に報道機関のみ質疑が公開された。
住民団体幹部は「運動靴が溶けた事実を斉藤栄市長に報告した。困った様子だった」と証言。地元住民は盛り土区域を10年に訪れた際、「底なし沼。大雨が降れば大変なことになると感じた」と語気を強めた。
ジャーナリストは違法行為を告発するため、盛り土や不法投棄に関与したとされる2人とともに熱海署や神奈川県警などを訪問。だが、証拠不十分などを理由に捜査が進まなかったと明かし、「警察が動いていれば、熱海市に情報提供されたと思う」と嘆いた。
一方、不動産会社元代表は前所有者が盛り土工事に際し、熱海市に提出した土採取等規制条例届出書を巡る市とのやり取りについて説明。「ひな壇状の盛り土に崩壊した部分があった。市からは『きちんと成形して硬化剤などで固めよ』と指導された。工事をすれば危険性はないと認識していた」と主張した。
百条委は17日に、盛り土した前所有者の元社員と現所有者の開発行為を申請した設計事務所関係者、当初から盛り土に関与した人物の計3人、18日に、現職市議と土木設計専門家らの計3人を参考人として招致。前・現所有者が対象となる予定の証人尋問は5月11、12日に行う。
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被災者や地元住民らは現場付近で犠牲者を悼んだ。遺族らが土石流の起点となった盛り土付近の土地の前・現所有者らを相手取って起こした損害賠償請求訴訟を巡り、被災による経済的損失を踏まえて裁判費用の支払いを猶予する「訴訟救助」が原告全員に認められたことも、この日の弁護団への取材で明らかになった。
発生時刻の午前10時半ごろ、岸谷(きだに)バス停(東海バス)近くに被災者や地元住民ら15人ほどが集合。地元の復興団体が設置した小さな線香台のもとで1分間の黙とうをささげ、順番に線香をあげた。熱海市盛り土流出事故被害者の会の太田滋副会長(65)は市議会百条委について「(参考人や証人は)知っていることを全て話さなければ、原因究明はできない」と指摘した。
一方、弁護団によると、静岡地裁沼津支部(古閑美津恵裁判長)が1日付で訴訟救助を認める決定を出した。84人分の手数料計1184万円の支払いが猶予される。【深野麟之介】
県の動きもあった。土石流で崩れ落ちなかった残土について、難波喬司副知事は3日の県議会一般質問で県の調査で崩落の危険性などが判明した場合、土地の前所有者に撤去を求める措置命令を出す方針を明らかにした。主体は市となるが、県議会で提出されている盛り土規制に関する新条例案が施行された場合、市から県に引き継がれる。
県は、崩落の起点近くに約2万立方メートルの盛り土が残っていると推定。台風に伴う豪雨などを想定し、盛り土の安定性について解析を進めている。難波副知事は仮に崩落しても、「住宅街に再被害を与える切迫した状況にない」としつつ、「安定性の評価については不確実性があり、適切な対応が必要」と答弁した。前所有者が措置命令に応じなければ、強制的に撤去するなどの行政代執行も視野に入れる。【金子昇太】