法廷から 〝遺体なき殺人〟は立証されるか 被告は「殺していません」

「私は妻を殺していません」-。被告は法廷で、はっきりとした口調で述べた。遺体が発見されないまま殺人などの罪で起訴された被告は、公判で死体遺棄について認めたが、妻が死亡したのは事故だと主張。遺体の傷などを検証できないため、立証のハードルは高いが、検察側は「殺意があった」として被告に懲役25年を求刑。異例の〝遺体なき殺人〟は立証されるか、判決が注目される。
監護権を巡る争い
千葉地裁(中尾佳久裁判長)で開かれているのは、千葉県印西市の小野理奈さん=当時(32)を刺殺して遺棄したとして、殺人や死体遺棄などの罪に問われた夫で無職の小野陽(あきら)被告(48)=茨城県つくば市=の裁判員裁判。
裁判では2人の間に、子供の監護権を巡る争いがあったことが明らかにされた。
長男が生まれ、平成27年に入籍した陽被告と理奈さんの関係は29年頃から悪化。翌年、理奈さんの帰省中に陽被告が自宅の鍵を変え、別居状態が続いた。
双方が弁護士を立て、長男の監護権について争ったが、裁判所は長男の監護者を理奈さんとし、陽被告に対して長男を引き渡すように命令。陽被告は「一方的だ」と不満を募らせた。
軽自動車内で何が
そして、令和2年3月の事件当日。陽被告は車で自宅を出た後、千葉県八千代市の駐車場で理奈さん名義で購入していた軽自動車に乗り換え、同県成田市の理奈さんの職場へ向かった。
群馬県警の元警察官である陽被告は、事前に職場を張り込んで理奈さんの車を特定、衛星利用測位システム(GPS)機器を取り付けて動向を把握していた。陽容疑者は職場から出てきた理奈さんに声をかけ、2人は軽自動車の後部座席に乗り込んだ。この車内が理奈さん死亡の現場になったようだ。
検察側は、陽被告の自宅から、理奈さんの血液が付着した折り畳みナイフが見つかっていることや、車内の血液の量などから「被告が刃物様のもので、殺意を持って被害者の頸部(けいぶ)を突き刺した」と主張。
一方、陽被告は「妻が(折り畳みナイフではなく)カッターナイフを取り出し、それを取り上げようともみ合っている際に妻の首に刺さって死亡した事故死だ」と主張。折り畳みナイフに理奈さんの血液が付着していた理由を「ずっと前にキャンプやバーベキューで使っていた妻が手を切った」などと説明した。

「理奈を返して」
陽被告は遺体を茨城県の海岸に遺棄したと供述。千葉県警が捜索したが、現在も発見されていない。
事故死を主張する陽被告は、遺棄した理由について「子供が1人ぼっちになってしまうので、隠そうと考えた」と述べた。最終意見陳述では「事故で妻が死んだことを後悔している。せめて忘れ形見の息子を一日も早く迎えに行き、守り抜きます」と涙を見せた。
一方、被害者参加人として出廷した理奈さんの父は「被告人からは一切謝罪がない。今も暗闇の中にいる理奈を返してほしい」と声を震わせた。
殺人か、不慮の事故か-。判決は8日、千葉地裁で言い渡される。(長橋和之)