衝撃事件の核心 シングルマザーに600回売春 洗脳で操った夫婦の所業

「カネがないなら風俗で働け」-。自宅に住まわせたシングルマザーの女性に600回にもわたり売春をさせ、売上金を巻き上げていた夫婦が2月、警視庁に逮捕された。女性が2年以上もの間、逃げることもできず搾取され続けた背景には、生活に困窮するシングルマザーの弱みに付け込んだ夫婦の「マインドコントロール(洗脳)」があったとみられる。
手を差し伸べるも…
売春防止法違反の疑いで警視庁保安課などに逮捕、その後起訴されたのは、東京都板橋区双葉町の無職、嵩原(たけはら)ゆき乃被告(33)と、夫で防水工の優力(ゆうき)被告(29)。
保安課によると、ゆき乃被告は平成30年2月、インターネットの動画投稿サイトを通じ女性(26)と知り合った。
女性は未就学児の子供を育てており、夫と離婚協議中だった。「離婚したら住むところがなくなる」。実家とも疎遠で頼れる人が少なかった女性は、親しくなったゆき乃被告に悩みを打ち明けた。
「うちに来れば? 仕事中は子供も預かるよ」
ゆき乃被告は女性に、自宅での同居を提案。女性は承諾し、同11月から夫婦の自宅アパートで同居生活を始めた。
困窮する女性に手を差し伸べたのかと思いきや、夫婦はすぐに家賃を請求し始めた。自宅の家賃は月数万円のところ、要求額は12万円。女性が支払うと、17万円、30万円、最終的には40万円までつり上げた。
女性が支払えなくなると、夫婦は「風俗で働け」と売春を強要した。女性は派遣型風俗店や出会い喫茶などの風俗店で働き、売上金を納めるようになった。
その後も夫婦の要求はエスカレートした。店を通さず客に直接性的サービスを行う「裏引き」や、路上で声をかけた男性と性行為を行うことなどを女性に要求し、搾取し続けた。
洗脳状態で搾取続ける
捜査関係者によると、女性は約2年4カ月の間に約600回もの売春を行い、少なくとも計860万円を納めたという。夫婦はそのカネで結婚披露宴を挙げたり、高級車やブランド品を購入したりするなど、派手な生活を送っていた。
女性は夫婦から売上金の端数の小銭しか渡されず、金銭的自由はなかった。女性の身なりなどに異変を感じた知人が助言。女性は昨年11月に板橋署に保護を求め、警視庁の捜査を経て夫婦は逮捕された。
路上で女性から売春を持ち掛けられ、買春した男性(39)は警視庁の調べに「女の子は電車賃すらなく、自転車で来ていると言っていた。腹も空いているようだった」と証言している。
こうした悲惨な状態だったにも関わらず、女性は「仕事中は子供を預けていて、逃げられないと思った」と、2年以上も助けを求めなかった。
夫婦は「(売春の)強要はしていない」と容疑を否認。捜査関係者は「『住まわせてもらい、子供も預かってもらっている』という女性の後ろめたさを利用し『売春してでも稼がなければならない』というマインドコントロール(洗脳)状態に置いていたのではないか」と、夫婦の悪質性を指摘する。
付け込まれる弱み
シングルマザーは非正規雇用に就いている場合も多く、経済的に困窮しやすいとされる。シングルマザーの支援活動を行う日本シングルマザー支援協会が令和2年に269人を対象に実施した調査によると、約半数の計48・7%が毎月の経済状況について「ギリギリ」もしくは「足りない」と回答している。
こうした弱みに付け込んだ犯罪も発生している。2年にはマッチングアプリで知り合ったシングルマザーの女性の娘2人にわいせつな行為をしたとして、30代の男が神奈川県警に逮捕された。男は「以前、塾で働いていた」などと説明して信頼を得て、女性が働いている間の子供の世話を任されていたという。
同協会代表理事の江成道子氏は「シングルマザーは経済的困窮から、心理的に追い詰められて誤った判断をしてしまう場合もある」と指摘する。
シングルマザーは「(フルタイムの)正規雇用では周囲に迷惑をかける」と後ろめたさを感じ、自ら非正規雇用を選択して経済的に困窮する人が多いという。
江成氏は「生活を安定させるイメージすらできない人が多い。時短勤務などで周囲と同じ仕事ができないのは、悪いことではない」と、正規雇用に就けないという考えは改めるべきだと話す。
その上で、国や社会はシングルマザーが働きやすい環境を整えることが必要と強調し、「生活を安定させることが子供の幸せにもつながる」と訴えている。(根本和哉)