「安倍やめろ」街頭演説ヤジ訴訟、道警は「排除」を正当化できるか? 3月25日に判決

「本件の争点は、被告の有形力の行使が警職法の適用で正当化されるか否かであると考えています」 札幌地裁の廣瀬孝裁判長がそう切り出したのは、その日で10回目の口頭弁論を迎えた国家賠償請求訴訟の法廷。2021年7月16日のことだ。 「言い換えますと、被告のほうが、有形力行使の正当性を根拠づける事実関係について立証責任を負っていると」 安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばすなどした人たちが複数の警察官に拘束された「首相演説ヤジ排除事件」。参院選期間中の北海道・札幌で起きた出来事はこの春、地元の裁判所で1つの結論に至ることになる。 警察の排除行為は適正だったのか、そうではなかったのか――。声を封じられた当事者らが起こした訴訟は昨年暮れに審理を終え、3月25日の一審判決言い渡しを待つばかりとなった。(ライター小笠原淳) ●「政権批判」の声を封じた道警 事件が起きたのは2019年7月。与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍元首相に「やめろ」などとヤジを飛ばし、あるいは批判的なメッセージを掲げようした人たち少なくとも10人が、警護にあたっていた警察官たちの手で現場から排除された。 ある人は複数の警察官に取り囲まれて意見表明を阻まれ、ある人は衣服や身体を掴まれて移動させられ、またある人は長時間にわたるつきまとい被害を受けた。いずれのケースでも警察官たちは法的根拠を告げず、ほぼ問答無用でこうした行為に及んでいる。 現場では与党支持者とみられる人たちが安倍氏に声援を送り、また好意的なプラカードを掲げる姿が見られたが、こちらは誰一人として排除されていない。 形としては政権に批判的な声のみが封殺されたことになり、ほどなく地元法曹や市民団体などから「警察が実力で言論の自由を侵害した」と抗議の声が上がり始める。 ●与党支持者との衝突回避のための「避難」だった? のちに地元議会でこれが追及された時、答弁に立った北海道警察が引き合いに出したのが、「警察官職務執行法(警職法)」。 当時の演説現場では、安倍氏を批判する人たちと与党支持者たちとの間でトラブルが起きるおそれがあり、警察官らはそれを回避するため批判者たちを「避難」させ(警職法4条)、あるいは「制止」した(同5条)という理屈だ。 冒頭に再現した裁判官の言葉は、この警職法適用が正当化できるかどうかを「被告」が立証しなくてはならない、という趣旨の発言だ。 ここでいう「被告」とは、北海道警察。ヤジ排除被害者が道警に損害賠償を求めているその裁判は、訴えを起こした原告側が排除行為の違法性を立証できるかどうかにかかわらず、訴えられた道警側が同行為の適法性を立証できなければ、その時点で原告が実質勝訴することになるわけだ。 ●前哨戦はことごとく原告の負け
「本件の争点は、被告の有形力の行使が警職法の適用で正当化されるか否かであると考えています」
札幌地裁の廣瀬孝裁判長がそう切り出したのは、その日で10回目の口頭弁論を迎えた国家賠償請求訴訟の法廷。2021年7月16日のことだ。
「言い換えますと、被告のほうが、有形力行使の正当性を根拠づける事実関係について立証責任を負っていると」
安倍晋三首相(当時)にヤジを飛ばすなどした人たちが複数の警察官に拘束された「首相演説ヤジ排除事件」。参院選期間中の北海道・札幌で起きた出来事はこの春、地元の裁判所で1つの結論に至ることになる。
警察の排除行為は適正だったのか、そうではなかったのか――。声を封じられた当事者らが起こした訴訟は昨年暮れに審理を終え、3月25日の一審判決言い渡しを待つばかりとなった。(ライター小笠原淳)
事件が起きたのは2019年7月。与党系候補の応援演説で札幌を訪れていた安倍元首相に「やめろ」などとヤジを飛ばし、あるいは批判的なメッセージを掲げようした人たち少なくとも10人が、警護にあたっていた警察官たちの手で現場から排除された。
ある人は複数の警察官に取り囲まれて意見表明を阻まれ、ある人は衣服や身体を掴まれて移動させられ、またある人は長時間にわたるつきまとい被害を受けた。いずれのケースでも警察官たちは法的根拠を告げず、ほぼ問答無用でこうした行為に及んでいる。

現場では与党支持者とみられる人たちが安倍氏に声援を送り、また好意的なプラカードを掲げる姿が見られたが、こちらは誰一人として排除されていない。
形としては政権に批判的な声のみが封殺されたことになり、ほどなく地元法曹や市民団体などから「警察が実力で言論の自由を侵害した」と抗議の声が上がり始める。

のちに地元議会でこれが追及された時、答弁に立った北海道警察が引き合いに出したのが、「警察官職務執行法(警職法)」。
当時の演説現場では、安倍氏を批判する人たちと与党支持者たちとの間でトラブルが起きるおそれがあり、警察官らはそれを回避するため批判者たちを「避難」させ(警職法4条)、あるいは「制止」した(同5条)という理屈だ。

冒頭に再現した裁判官の言葉は、この警職法適用が正当化できるかどうかを「被告」が立証しなくてはならない、という趣旨の発言だ。
ここでいう「被告」とは、北海道警察。ヤジ排除被害者が道警に損害賠償を求めているその裁判は、訴えを起こした原告側が排除行為の違法性を立証できるかどうかにかかわらず、訴えられた道警側が同行為の適法性を立証できなければ、その時点で原告が実質勝訴することになるわけだ。