外国産アサリが「熊本県産」として流通していた問題で、かつて産地偽装にかかわっていた男性が読売新聞の取材に応じた。男性は、山口県下関市の税関を通った後、熊本県を経由しない「下関ルート」の存在を証言。業界では偽装を「チェンジ」と呼び、ダミー会社が介在することで行政の調査が及びにくい仕組みになっていると語った。
男性はかつて複数の輸入業者の依頼を受け、下関港から輸入したアサリの産地を偽装し、仲卸業者に販売する仕組みに携わっていた。販路は千葉や愛知県など約40社に上った。
財務省の貿易統計によると、2021年に全国で輸入されたアサリ3万419トンのうち、下関税関支署管内の取扱量が約7割を占めた。「下関ルート」で男性らが扱っていたのは主に韓国産で、取引時期は初夏以降。熊本県の海で短期間保管する「蓄養」を行うと暑さなどで死んでしまうため、そのまま出荷していた。「輸入アサリの4~5割がこのルートで販売されていたのではないか」と語る。
「チェンジ」と呼ばれる偽装の際には、実態のないダミー会社名義で「熊本産」と記した納品書を作成し、仲卸業者にファクスすることで産地を偽った。価格に1キロあたり数円を上乗せして請求。アサリは輸入業者から仲卸業者に直接出荷されており、「アサリは全く見ない。紙だけのビジネスだった」。ダミー会社は数か月ごとに次々と切り替わり、「国や県の調査が入っても、足が付かないようになっていた」と振り返る。
11月から翌年5月までがピークの中国産も、一部は下関からそのまま仲卸業者に出荷されたという。
男性は偽装の実態を仲卸業者や輸入業者らも広く知っていたと強調する。「外国産はイメージが悪く、関東や関西の仲卸から、『熊本県産に切り替えてくれ』と求められていた。(偽装は)必要悪だと思っていた」
こうしたダミー会社を利用して輸入アサリを販売していた別の業者は、「どこで『熊本県産』に変わるか分からないが、偽装されるのは知っていた。周りがやっているから、偽装しないと生き残れなかった」と打ち明ける。
国は産地偽装を防ぐため、3月30日にアサリの食品表示のルールを厳格化。国産と表示するには、養殖の漁業権がある業者が国内の海で1年半以上育てた上で、輸入時期が分かる書類などが必要とし、蓄養は生育期間に含めないことにした。一方、熊本県は、条例で書類の保存期間を3年程度に延ばす方向で調整している。
こうした再発防止策に対し、男性は、熊本県産の漁獲量が少なく、輸入アサリに比べて価格が高いため、「偽装は繰り返されるのではないか」との見方を示す。「書類の保存期間を延ばしても、チェンジする会社を短期間で変えればいいだけだ」と語った。