コロナ禍にあって急速に問題視されるようになった、路上や公園で飲食する「路上飲み」。学生の街・高田馬場では駅前ロータリー広場での飲酒によるポイ捨てや騒音が増加し、通行人や近隣住民を悩ませています。
高田馬場駅前ロータリー広場
「ロータリーの会」(@Rotary_waseda)はそうした散乱ゴミ問題を解決するために2020年に発足した学生団地体。早大生で創設者の新井国憲さんを中心に50名弱の会員で活動を行っています。今回は、新井さんと団体メンバーの中村竜之介さんの2人に、会の発足や、路上飲みの状況、意外なゴミの種類などについて聞きました(肩書きは2022年2月の取材当時)。
◆歩き旅で見た不法投棄がきっかけ
──なぜ高田馬場駅前ロータリー広場(ロータリー)を清掃する学生団体、「ロータリーの会」は発足したのでしょうか。
新井国憲(以下、新井):僕は出身が福岡で、大学入学にあたって上京しました。そこで高田馬場駅にはじめて降りたときに夜のロータリーで学生や若者たちが大声でお酒を飲み散らかし、ポイ捨てをしている惨状に驚いたのが原体験です。その後、スポーツ系のサークルに入ったのですが、そこがかなりお酒を飲むサークルでした。それで僕もその一員としてロータリーを使って、同じように飲み騒いで、汚してしまったんです。
大学3年になってサークルを引退した後、東京から福岡まで歩いて旅をしました。日本は3分の2が山地ですから、歩いている途中に山が多く、その山中に産業廃棄物が不法投棄されているのを目撃しました。その旅が終わった後にゴミ問題に対してなにか行動を起こしたいと思い、始めたのがロータリーの清掃です。自分自身がそこを汚していた過去もあり、後輩を誘って、ロータリーの会を立ち上げました。
──活動に対する周りの反応はどうですか。
新井:夜に清掃活動をやっているので、あの状況の中、ゴミを拾っている人は目立つ存在ではあります。目の前でゴミを捨てられたりもしますね。あまり注意はしないようにしているのですが、怒りの沸点に達して注意したことでトラブルに発展することもありました。
◆ゴミを拾ったら罵声で「死ね」
新井国憲さん(右)と、中村竜之介さん
──どのようなトラブルでしょうか。
新井:目の前でタバコを吸っている学生がポイ捨てをしたので、僕が拾って「灰皿に入れてください」と言うと、急に中指を突きつけられて「死ね」のようなネガティブでひどい言葉を投げかけられました。あと、活動当初は嘲笑されている感じはありました。はじめはひとりでやっていたので、ロータリーを無法地帯だと思っている多くの人からは異端視されていたように感じます。
中村竜之介(以下、中村):女性が帰り際に、こちらの存在に気付いていながらも空き缶をポイ捨てされたことが心に残っています。彼女は植え込みにポイ捨てをした後、こちらを一瞥(いちべつ)しました。
◆モラルを保っての利用は許されるべき
実際の清掃の様子
──ロータリーの会はゴミ問題に焦点を当てて活動する一方、ロータリーには騒音問題などその他の問題も山積しています。そうした問題についてはどのように考えていますか?
新井:一線を越えてしまうと、問題視すべきだと思います。ただ、ロータリーができてから今まで、早大生も地域住民の人もその利用についてあまり問題視してきませんでした。新宿区の職員の方も「地域の人は寛容な目で見られてきた」とおっしゃっていました。しかし、コロナ禍で路上飲みが糾弾され、ロータリーがメディアによって取り上げられたことで世論は大きく動く可能性もあります。
──では、団体の総意としては、ゴミを捨てず、迷惑にならなければ、ロータリーは飲酒などの場として利用してもよい?
新井:一定のモラルを保って、利用は許されるべきだと思います。高田馬場は学生街という印象が強く、ロータリーはその象徴的な場所ではあると思います。ぼくらはあの広場あっての団体ですし、ロータリーの利用を前提とした上で、綺麗に保ちたいと考えています。もちろん、コロナ禍での路上飲みは感染リスクを考慮した上で控えるべきだと思います。
◆人がいてゴミがない状態を目指す
──先ほど、ロータリーの利用者を「注意しない」と言いましたが、それは飲酒などを楽しんでいるのを邪魔したくないという気持ちがあるのでしょうか。
新井:広場は交流の場所ですから、あまり注意をしたくないと思います。僕たちの考えるロータリーの理想のあり方は、人がいてゴミがない状態です。
──では、ゴミ拾い以外に活動していることや、これからしていきたいことはないのでしょうか。
新井:他のサークルや地域団体、企業と連携した活動も行なっています。他には、新宿区ゴミ減量リサイクル課に提言もしています。清掃活動のときにゴミをカウントしてデータ化をしているので、そのデータや写真などで現状を報告しています。
ただ、僕たちは新宿区からボランティアあるいは学生団体として捉えられています。ゴミ箱の設置やマナー広告などの啓発掲示物を提言していますが、話は聞いていただけても、実施には至っていません。そもそも新宿区は管理の問題で公道にゴミ箱を置くのを禁止しているのですが、実際はゴミがゴミ箱から溢れることによる景観の乱れもひとつの要因だったようです。
現在では表参道にも設置されている、ゴミを自動圧縮するゴミ箱や、遠隔でゴミがどのくらい溜まっているかわかるゴミ箱など、新しいゴミ箱が登場してきました。また、企業広告をゴミ箱に貼ることで自治体の負担もほとんどなくなります。こうした画期的なゴミ箱があるため、区にはぜひ積極的に導入して欲しいと思っています。
◆新宿区長との対話で実現したことも
「ロータリーの会」創設者の新井国憲さん
──個人的なゴミ拾いからはじまった活動ですが、はじめから企業との連携や区への提言はビジョンにありましたか?
新井:はじめは全く考えていませんでした。活動を続けていく中で認知度が着々と上がってきて、やれることが多くなりました。地域住民、飲食店とつながっていき、区議員の人ともつながりをもてるようになりました。はじめから清掃活動だけで問題が解決するわけではないと思っていましたし、ゴミ拾いをしていくなかでだんだんと何をするべきか考えていたんです。2020年の12月には区議員の方からの紹介で新宿区長と対話もしました。先ほど言ったゴミ箱の設置や、LEDライトの点灯を提言して、ライトに関しては1か月ほどで実現しました。
──コロナ禍で、ロータリーでの路上飲みの状況はどうでしたか?
新井:実際、増えていました。しかし、個人的には2018~2019年のコロナ以前の状況を知っているので、特別多くなったという印象は受けないです。メディアがロータリーを路上飲みのスポットとしてこぞって取り上げたことで、イメージがついてしまったんです。コロナ禍で急激に問題が悪化したわけではないですね。
◆路上飲みからロータリー閉鎖に
──2021年5月、新宿区はロータリーを閉鎖しました。それは路上飲みが増えていたからではないですか?
新井:区がロータリーを閉鎖したのはマスコミが報道したからです。街自体のイメージが悪化することと、苦情が多く寄せられることを懸念したんだと思います。区側はそれを認めず、「コロナ対策で閉鎖した」と言っていますが。僕は路上飲みを抑制するための閉鎖なら夜間だけでよいのではないかと思い、個人的に別団体で新宿区に抗議の陳情書も提出しました。
──閉鎖が解かれてからはどういった状況ですか?
新井:閉鎖が解かれた翌日の朝に拾った空き缶の数はこれまでで最も多かったです。利用者はなにも学んでいないと思い、落胆しましたが、それ以降はだんだん利用者が減ってきたのか、ゴミの数も減少傾向にあります。
◆缶、ビン、タバコ以外にも意外なゴミが
──実際にはどのくらいの数のゴミが捨てられているのでしょう。
新井:空き缶400個、タバコ1200本、ビン50本、ペットボトル40本が最多です。他にも変わったゴミが落ちていることもあります。ベビーカーや人糞、コンドームなどには驚きました。ニット帽など、誰かが取りに来るかもしれないものは交番に預けているのですが、あまりに頻繁に交番に持っていくので、「持ってこないで」と先日言われました。高田馬場駅前交番は大怪我をする人などがいない限り、ロータリーに出動することは基本的にないので。
──警察には動いてほしいと思いますか?
新井:思わないですね。自治の力で解決することが理想です。ただ、現実はそう上手くはいきません。ポイ捨ては法律違反にあたると思いますし、システム上、もう少し気にかけてくれてもよいのでは、と思います。授業の一環で採ったアンケートや、地域の方との意見交流でも、自治体や駅前交番の対応に関する批判の声はありました。
◆清掃中、置き引きに遭うことも
「ロータリーの会」メンバーの中村竜之介さん
──活動を行っていてショックだった出来事はありますか?
中村:高田馬場のバーでお酒を飲んでいたら、そこにきていた男性に「区の清掃員が清掃した後をなぞっているだけでしょ」と言われたことがあります。その男性は僕たちがロータリーの会だとは知らなかったようですけどね。
新井:喫茶店でもありますね。店員の男性に笑いのネタにされているのを、たまたま聞きました。あとは、外国人の男性に置き引きされそうになったことがあります。喫煙所でタバコを吸っていたおじさんが気づいてくれたので盗まれずに済みました。
その後、その男性がいつもロータリーにいることに気がついて話しかけたことで顔見知りになりました。最寄り駅が同じだったこともわかり、家で酒を飲み交わす仲になりました。彼は僕の荷物を盗もうとしたことは覚えていませんでしたが。あとはやはり2021年5月のロータリーの閉鎖がショックでした。公共の場所でルールやマナーを破りすぎていると、どういった結末になるか示されたと思います。
◆写真展やクラウドファンディングも企画
──2022年2月からは写真展を企画してクラウドファンディングも行いましたが、今後の活動はどのように進めていくのでしょうか。
新井:そうですね。閉鎖を機にロータリー利用者の意識を変えるチャンスだと思い、企画しました。駅前の紹介から始まり、閉鎖中の写真や、卒業式の夜の写真などを展示します。僕は今年で大学を卒業しますが、活動は後輩たちがこれからも継続していきます。
中村:発足人である新井さんが抜けた以降も変わらず活動を継続できるよう頑張ります。
<取材・文/アンドリュー>
【ロータリーの会】 「あしたのロータリーをつくろう」をコンセプトに、高田馬場駅前ロータリー散乱ゴミ問題と対峙している2020年新設サークル。ロータリー広場の散乱ゴミ問題を解決することで、街のシンボルにすることを目指している。Twiter:@Rotary_waseda 新井国憲さん(創設者):@knkz_92
ライター駆け出し。音楽と古着とスワローズが好きです。