暴力団を離れた元組員を雇用した事業者向けに、愛知県警が給付金制度を新たに設けて4月で1年を迎えた。「受け皿」を用意して離脱を促すのが狙いで、これまでに5人が就労した。元組員からは「生活が安定した」との声が上がるが、受け入れ企業に広がりが見られず、県警は制度への理解を呼びかけている。
「10社ほどから採用を断られて困っていたが、県警の支援で就職できた」。昨年7月、愛知県内の人材派遣会社に就職した元組員の70歳代男性はそう話す。
30歳になる頃、トラブルで勤務先を解雇されたのを機に暴力団に入った。ヤミ金融などの不法行為で資金を集め、「詐欺や恐喝で10回以上は逮捕された」。がんを患う妻の看病のため、昨年2月、約20年にわたり組長を務めた組織を抜けた。
「カタギ」に戻ろうにも就職活動がうまくいかずに弱っていた時、県警から紹介されたのが今の勤め先だ。週3~4日、工場で油まみれになりながらダクト清掃などにあたる。男性は「額に汗して働く充実感は暴力団では得られない。体が動く限り働きたい」と意欲を見せる。
県警の制度では、元組員を雇った事業者に1人当たり年最大72万円を給付する。事業者の不安に配慮し、元組員が事業者に業務上の損害を与えた場合は最大200万円を補償する。
この1年で就労した元組員5人は30~70歳代で、業種は建設会社や運送会社など。受け入れ企業の役員は取材に「トラブルなく、よく働いてくれる。真面目に生きようとする人を支える成功事例になったと思う」と話す。
受け皿企業34社止まり
一方で、県警によると、元組員を受け入れる意向を示しているのは県内の8業種34社にとどまる。2016年に同様の支援制度を導入した福岡県では、受け入れる意向を示した企業が400社近く(昨年1月時点)に達し、同県警の支援で昨年までに67人が就労した。
愛知県暴力団排除条例などでは、暴力団から離脱後5年間は関係者とみなされるため、口座開設や不動産の契約ができないケースも多いという。県警幹部は「社会復帰できないまま、再び違法薬物の売買など不法行為にくみしてしまう恐れもある」と懸念を示す。
県警は刑務所に収容中の組員の離脱・就労を促すため、名古屋刑務所と協力することも決めた。離脱の意思や希望職種などの情報を共有したり、事業者が警察官と刑務所内で採用面接できるようにしたりする。県警の河合博明・組織犯罪対策局長は「離脱後の生活支援にも力を入れ、再犯防止や暴力団の弱体化につなげたい」としている。
組員10年で3分の1
暴力団員の人数は減少傾向が続く。愛知県警によると、昨年末時点の県内の暴力団員数は約1000人で、2012年(約3300人)の3分の1以下まで減った。全国でも半数以下になっている。
各地で暴力団排除の機運が高まり、資金獲得活動が制限されて暴力団員が生活に困るようになった影響が大きいという。コロナ禍で風俗店などから得る「用心棒代」も減り、県警はさらに離脱が進むとみている。
〈雇用給付金支給〉 元組員を継続して1か月以上雇用した事業者に年最大72万円を支給する。支給額は最初の6か月が月8万円、その後は3か月ごとに12万円。
〈身元保証〉 元組員が受け入れ事業者に損害を生じさせた場合、損害を補償する。補償金は最大200万円で、保証期間は雇用後1年間。