政府は中小企業に“罰ゲーム”を科した。助成金の無利子融資は金利ゼロではない

コロナ禍の影響で、助成金を利用する企業や自営業者が増えている。まさに空前の補助金ブームともいえる昨今で、安易に補助金に手を出す危険性について「助成金は麻薬だ」と警鐘を鳴らすのが、経済評論家として活躍する上念司氏だ。助成金や融資を利用しまくる企業のリスクや、政府や官僚たちの思惑などについて、上念氏が解説する。
(以下は、上念司著『あなたの給料が上がらない不都合な理由』の一部を編集したものです)

◆国の助成金や無利子融資に潜む「罠」とは

今回のコロナ禍のパンデミックという緊急事態において、政府は雇用調整助成金や無利子融資の拡充、給付金などいろいろやっているように見えますよね。でも、これって国民が騒いだから渋々やっているようなものなんです。

無利子融資と気軽に言いますが、将来の売上が見込めない状況で債務を増やすのっていかがなものでしょう? 非常に勇気がいりますよ。だって、普通はそういう時、借金を増やしちゃダメですから。

しかし、2020年の緊急事態宣言の時、与党の政治家が「とにかく今は金利がいらないので借りてください」といった趣旨の主張をされていました。この人たちは経営が分かっているのでしょうか? コロナが何年続くか分からないのに、債務だけ増やしたらその後大変じゃないですか。

しかも、日本の経営者の場合、会社の借金の保証人をさせられているケースがほとんどです。コロナの無利子融資では個人保証が不要だとしても、それ以前の債務についてはだいたい個人保証がついております。

最悪、廃業するなら黒字倒産のほうがマシと考えれば、無利子融資で債務を膨らませることって罪作りな気がします。もちろん、急場を凌げば復活できるビジョンを持った経営者がいるなら話は別ですよ。大いに借金して、その後大儲けして借金を返済してください。

◆無利子融資は金利ゼロではない? 政府は中小企業に罰ゲームを科した

政府に言われるがままに無利子融資を増やした中小企業が、今後大ピンチに陥る可能性が出てきております。なんと、この無利子融資制度を利用した企業の3割は2022年1月時点ですでに債務の返済が始まっているのです。世の中がオミクロンパニックで短期的な売上すら見通せないのに、借金の返済ですか? なんと厳しい罰ゲーム!!

そもそも、この融資、本当に金利ゼロではないんです。正確に言うと、融資後3年間は無利子。返済猶予期間も最長5年までとなっております。ただ、猶予期間を長くするほど、返済期間の後半に返済が集中して、負担が増しますよね? だから、返済負担を平準化するために、猶予期間は1年から2年ぐらいに設定している企業が多いとのこと。2020年に借りて、2年経ったら、2022年! 今年じゃないですか!!

◆救済措置はまったくなし? いきあたりばったりな政府救済策

ところが、返済が始まるこのタイミングでオミクロン騒動ですよ。飲食店などは営業時間の短縮など酷い目に遭ってしまいました。また、感染力が強いので、濃厚接触者になってしまう人が幾何級数的に増加しました。みんなが仕事を休んでしまうので、会社の仕事が回りません。本当に大変です。

この点について救済措置などは現時点でははっきり決まっていません。これなら2年前に廃業しておけばよかったと思う経営者も出てくるかもしれませんね。政府の救済策というのは大概こういうものです。補助金や助成金の類も、無利子融資も基本的には一緒。商売とは異なるロジックで構成されていて、一度手を出すとやめられなくなってしまうんです。補助金は麻薬。本当にシャレになりません。

◆危機感のない税務署は緊急時も平時対応

非常時に政府がいかにアテにならないかについて、私の個人的な体験をお話ししておきます。2020年の新型コロナのパンデミックで世の中が大騒ぎになっていても、税務署は平時と変わらぬ税の徴収業務をやっていました。

みなさんは悪名高き中間納税という制度をご存じでしょうか? 法人税と消費税について、前年度に納税した金額の半額を翌年前納するという制度です。政府が税金の前払いを義務化して、実際に徴収するわけです。

もちろん、これはあくまでも前年並みの利益が今年も上がるという前提での前払いになります。実際に決算を〆てみて赤字になってしまったら、中間納税した法人税は全額還付されます。

2020年以降、パンデミックに伴う非常事態宣言はたびたび発出されました。普通に考えれば、多くの企業の売上、利益はマイナスですよね? ところが、税務署は2019年の業績に依拠して中間納税をシレっと徴収していたんです。これはおかしい!! 私はSNSや出演する番組などを通じて騒ぎまくりました。

別に税金を払わないということではないんです。決算が出て、払う必要のあるものは払います。でも、今の状況を考えれば中間納税なんてできる余裕のある会社のほうが少ないはず。ところが、緊急時に平時対応する税務署に危機感はまったくありませんでした。

◆官僚機構はとにかく非常時に弱い!

私は知り合いの国会議員を通じて、この件を衆議院予算委員会などで質問してもらいました。その結果かどうかは分かりませんが、この件は大きな注目を集めました。そして、最終的に安倍総理(当時)は、中間納税の猶予措置はもちろん、猶予する際に延滞税ナシという英断をしました。よっしゃー!と思ったのもつかの間、思わぬ伏兵が現れます。

なんと、都税の中間納税について都税事務所に問い合わせたところ、それは国税だけの話で、都税は別って言われてしまったんです。そんなバカな?

財務省からのお知らせには「地方税や社会保険料についても同様の特例が設けられます」と書いてあります。しかし、都税事務所の役人はこれを全然フォローしてなかったようです。現場が相当混乱していたのは分かりますが、企業にとっては死活問題ですよ。もっと緊張感を持って仕事しろよって思いました。とにかく官僚機構というのは非常時に弱いです。何でも平時の延長でしか考えない。まぁ、安定志向の人が公務員になるわけですから、当然なのかもしれませんけど。

◆民主主義は時間的コストがかかるシステム

政治リーダーは国民の怒りを抑えるためにリップサービスをします。ところが、具体的な中身はあまり決まっていません。現場の職員は言われた通りにやることはできても、何も決まっていないことには対応できない。

そんな時、今回のような事件が起こります。そして、似たような事件がたくさん重なって、それが国民の怒りに火をつけます。政治リーダーは慌てて官僚機構のトップを呼びつけて「お前何やってんだ!」と怒鳴り散らします。そこまでやって初めて物事は前に進む。民主主義って時間的コストがかかるシステムなのです。もうこれは民主主義の宿命とでも言っていいかもしれません。だからこそアテにならない。

ここに「財務省の呪い」、すなわち「Zの呪い」が垣間見えるのは気のせいでしょうか? 少し景気が良くなるとすぐに引き締め、増税に走るくせに、緊急事態で国民が税金の減免や猶予を求めてもなかなか動かない。国会答弁で総理大臣がコミットしたことであっても、平時の手続きにこだわり、現場では平気で知らぬ存ぜぬを通してしまうわけです。まさにこの国の隅々にまでZの呪いが浸透している。

◆給与を上げるには自力救済しかない

昨今は企業が多くの内部留保をため込んでいることが問題視されています。でも、こうした事情を踏まえると、企業経営者としては、景気がちょっとぐらい良くなっても、国を全く信用できないのは当然だと思いませんか? 今回のコロナショックで多くの経営者が「内部留保しておいてよかった」「給料を上げなくて良かった」と思っていることでしょう。

安倍政権が誕生して以降、総理大臣が企業に賃上げを要求するという「官製春闘」が常態化しております。しかし、その成果はイマイチ上がっていませんよね。

理由は簡単です。日本の物価はマイナス圏を脱してもうデフレではない状態になったのですが、その上昇幅はわずか1%程度だからです。大して物価が上がらなければ、給料も大して上がらない。当たり前です。だからみなさんも政府をアテにしてはいけません。給料を上げたかったら、他力本願ではダメ。ひたすら自力救済を目指すしかない。悲しいですけど、これが現実です。

<文/上念 司>

【上念司】
1969年、東京都生まれ。経済評論家。中央大学法学部法律学科卒業。在学中は創立1901年の弁論部・辞達学会に所属。日本長期信用銀行、臨海セミナーを経て独立。2007年、経済評論家・勝間和代氏と株式会社「監査と分析」を設立。取締役・共同事業パートナーに就任(現在は代表取締役)。2010年、米国イェール大学経済学部の浜田宏一名誉教授に師事し、薫陶を受ける。リフレ派の論客として、著書多数。テレビ、ラジオなどで活躍中

―[あなたの給料が上がらない不都合な理由]―