知床観光船、献花台に多くの人「言葉も出ない」 事故から4日目

北海道・知床半島沖で乗員乗客26人を乗せた観光船「KAZU Ⅰ(カズ ワン)」が浸水した事故から4日目となった26日。乗客の遠方の家族や恩師、同僚にも悲しみが広がった。観光の町で起きた惨事に地元住民が受けたショックも大きく、遺体安置所前の献花台には多くの人が集まって、犠牲になった人たちを悼んだ。
第1管区海上保安本部は25日夜、死亡が確認された11人のうち3人の身元を発表した。その一人が、河口洋介さん(40)=香川県丸亀市=だった。
「頑張り屋だった。勉強も頑張って文武両道だった」。25日夜、毎日新聞の取材に応じた高校時代の恩師は河口さんのことを、そう振り返った。県内有数の進学校、丸亀高で野球部に所属。3年時はノーシードから勝ち上がり、県大会で準優勝した。同校関係者によると、本格的に野球を始めたのは高校に入ってからだった。
レギュラーにはなれないと分かると打撃に専念。代打での試合出場を目指した。進学校ゆえ、途中で勉強にかじを切る生徒もいたが、チームの練習後もバッティングを繰り返し、マネジャーに打撃フォームをビデオで撮影してもらう努力家だった。
大学卒業後は民間企業を経て地元・丸亀市に隣接する坂出市役所職員に。同僚によると、職場のソフトボール部に所属し「飲み会でも盛り上げ役で、ムードメーカーだった」。環境行政に関わったが「市民にも誠実な対応をする人だった。突然のことで信じられない」と声を落とした。
市によると、休暇取得中だった。知人によると、一人旅だったという。冷たい海に身を投げ出され、命が絶たれることになった。高校時代の恩師は「事故というよりも、(運航会社が事故を繰り返していたという)報道を見ると、事件に近い気もする。残念」と憤りをにじませた。
同じく死亡が確認された橳島(ぬでしま)優さん(34)=千葉県松戸市=の母親は26日夜、自宅前で報道陣の取材に対し、「無念です。それしか今はありません」と語った。
筑波大は同日、同姓同名の卒業生がいるとして取材に応じた。指導を担当していた松島亘志(たかし)教授は、まだ橳島さん本人と断定できないとしたうえで「信じられない。これからもっとやりたいことがあったと思うと本当に残念」と話した。
松島教授は「乗り物や旅行が好きだと聞いていた。卒業旅行の間に小型飛行機の免許を取ってくるようなバイタリティーのある学生だった。4年生の時に(学会で)賞を受けるなど、研究も頑張っていた」と振り返った。
献花台は、遺体安置所となっている北海道斜里町の施設入り口に25日、町民の要望で設けられた。26日も花を手向けて犠牲者の冥福を祈る地元の人たちの姿が見られた。乗客には子どもが2人おり、うち一人は3歳だった。献花台には、菓子やジュースのほか、安否不明者が早く見つかるよう願いを込めた手書きのメッセージなどが並んだ。
「せっかくの楽しい旅が、こんなことになるなんて……残念で仕方がない」。知人たちと一緒に献花した主婦の佐々木幸子さん(73)は「私にも5歳の孫がいる。自分の家族だったらと思うと、言葉も出ない」と涙で声を詰まらせた。
夫が漁師という30代の女性は「事故のあった日、夫は午前中に漁から引き揚げてきた」と振り返り、「漁師が引き揚げているのに運航を続けてしまったのは、会社の判断が甘かったのではないか」と疑問を口にした。その一方で「一人でも多くの人が見つかってほしい」と願っていた。【川原聖史、西本紗保美、菅沼舞、真田祐里、宮田哲、北村秀徳、高橋由衣】