北海道・知床半島沖で観光船「KAZU I(カズ・ワン)」が沈没した事故を受け、海上保安庁は18日、救助体制を強化すると明らかにした。人命救助にあたる機動救難士やヘリコプターを増強。出動から1時間で到達できない「空白地帯」の解消を目指す。
海保の奥島高弘長官は同日の記者会見で「さらなる救助、救急能力を向上させるためヘリの増強や機動救難士の配置を進め、体制の整備を進める」と述べた。
事故をめぐっては、運航会社「知床遊覧船」の杜撰(ずさん)な運営実態が次々に明らかになっている。国土交通省が昨年、2度の事故を起こした同社を監査しながら、運航記録簿などのチェックを徹底していなかったことも判明した。
こうした国の監査・検査体制の不備などについて、斉藤鉄夫国交相は18日、観光船沈没事故に関する衆院国交委員会の集中審議で、「こちらにも反省点はある」と述べ、運営実態について国のチェックが不十分だったと認めた。
一方、国交省の高橋一郎海事局長は事業者に対する規制の見直しについて「法令違反を繰り返す悪質な業者は行政処分の厳格化も検討する」とした。
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海上保安庁が救助体制の強化に乗り出すのは、観光船沈没事故が航空基地から離れた「エアレスキューの空白地帯」で発生し、救助要請から海保のヘリコプターが現場に到着するまで約3時間もかかったためだ。
「出動から1時間で到達できない海域をなくす」。海保の奥島高弘長官は18日の会見でこう強調した。ヘリからつり上げ救助にあたる「機動救難士」は全国9カ所の航空基地に9人ずつ計81人配置されている。
海保では、羽田特殊救難基地(東京)を加えた全国10基地から半径185キロの圏内を「1時間出動圏」と設定。通報から1時間で現場に到着できる範囲としているが、北海道で機動救難士が待機しているのは、事故現場から直線距離で450キロ以上離れた函館航空基地のみ。知床を含む道東や道北は「圏外」だった。
事故が起きた4月23日は午後1時13分に救助要請の118番通報があり、9分後の同22分、釧路航空基地に出動指示が出された。だが海保関係者によると、当時は所属ヘリ2機のうち1機が整備中。もう1機も別の任務に当たっていた。燃料の補給と2人の潜水士を乗せるため基地に戻る必要があり、現場に到着したのは午後4時半ごろだった。
周辺の各海上保安部や保安署に所属する巡視船や巡視艇の到着も天候の影響などで遅れ、現場到着は約4時間半後となった。
航空基地13カ所のうち釧路を含む10カ所では所属ヘリが2機にとどまる。海保関係者は「ヘリは航空法や部内規定に基づき年間約150日は整備や修理に充てる必要がある」と説明。整備中は稼働できるのが1機のみというのが実態だ。その1機がパトロール中であれば、緊急時の出動が遅れてしまう恐れもある。
元第3管区海上保安本部長で日本水難救済会常務理事を務める遠山純司(あつし)氏は「海保ヘリは海面近くを飛行するため腐食が進みやすく、整備に時間がかかる傾向がある。2機体制では十分とはいえない」と指摘する。
救助体制の強化には「予算の壁と人を育てる壁もある」(奥島長官)が、レスキューは「海保の一丁目一番地」(幹部)。海保は今後、各基地にヘリを追加配備し、3機体制とする方針だ。救助体制の課題を一つずつ克服し、実効性を確保した体制を早期に整備することが求められている。(大竹直樹)