なぜ彼の命を・もっと話したかった・人災だ…知床沈没1か月、知人ら悲痛の声続々

北海道・知床半島沖の観光船「KAZU I(カズワン)」の沈没事故は今後、水深約115メートルに沈んだ船体の引き揚げ作業が本格化する。

沈没事故では乗客14人が亡くなり、今も12人の行方が分かっていない。
事故で犠牲になった香川県丸亀市の河口洋介さん(40)は約10年前、よさこいの踊りを楽しむ市内のチームに所属していた。「真面目で、弱音を吐くことなく練習していたのが印象に残っている」。同じチームにいた男性は、そう思い返す。
河口さんは2013年、高知市で開かれたよさこい祭りに職場の同僚と参加。仲間からは親しみを込め、「ぐっさん」と呼ばれていた。男性は「おとなしくて前に出るタイプではなかったが、爽やかでイケメンの好青年」と振り返る。2日間で50回ほど踊る過酷な8月の祭り本番も、河口さんは笑顔を絶やさなかったという。
あの日、荒天が予想されながらも出港を決めた運航会社「知床遊覧船」。男性は「悔しいし、悲しい。なぜ彼が命を奪われなければならなかったのか」と憤った。
亡くなった福岡県筑後市の伊藤

嘉通
(よしみち)さん(51)と同じ小中学校に通い、卒業後も親交があった同県八女市の男性(51)は、ふとした時に伊藤さんを思い出すという。
中学の時は同じ体操部で、後方に宙返りする手本を見せてくれた。社会人になっても、飲食チェーンの海外事業部門で活躍する伊藤さんに刺激を受けた。「一緒に酒を飲みながら、互いのことをもっと話したかった」と悔やんだ。
この1か月、運航会社のずさんな安全管理が次々と明らかになった。男性は「起こるべくして起きた事故で、人災だ。二度と起きないようにすることが、亡くなった人たちの弔いになる」と再発防止を願う。
観光船には同県久留米市出身の30歳代の男性が伊藤さんと一緒に乗船していたとみられるが、行方が分かっていない。同じ小中学校だった自営業の男性(35)は「見つかってくれることを祈るだけ」と静かに語った。