「国際ロマンス詐欺」の被害が、あとをたたない。SNSで見知らぬ外国人からアプローチを受け、その巧みな話術に騙されて、恋心もあって多額の海外送金をしてしまうというもので、近年、被害は増加している。 エッセイストの紫原明子さんの元にも、国際ロマンス詐欺を疑わせる外国人男性からのメッセージが届いた。一体、彼はどんな手口で女性にささやき、心を奪ってしまうのか。「会話というのは本来すべて、何が生まれるかわからない即興のセッションのようなもの」という紫原さんが、その顛末を寄稿した。(2/3) ●「アンディ」とのぎこちないやりとり 国際ロマンス詐欺師であろうと思われた男は、やはり国際ロマンス詐欺師であった。振り込み要請がどのようにしてなされたかについては次回詳細に書くとして、今回は彼らがメッセージのやりとりでどのような夢を見せ、信頼を築いていくのか。詳細な手口をお伝えしたい。 相手は、自らをアンディと名乗った。というと「私はアンディです」と語ったように想起されるだろうが、不思議なことにアンディは、自己紹介のあとも常に自らをアンディと名乗り続けた。アンディの一人称の約半分ほどが「私は」ではなく「アンディは」なのである。 「アンディは今回日本に行ってかわいいAkikoに知らせてもいいですか? 昨夜友達のアンディはAkikoを招待して美味しい日本料理を楽しみたいですね」 なぜ自分のことを名前で呼ぶのかと尋ねたところ「アンディは勇敢な男を表す名前だ、友達もみな自分をアンディと呼ぶから、自分も自分をアンディと呼ぶ」とのことだった。 はじめのうち私とアンディは日本語で会話をしていたが、やはりアンディは翻訳機を使っていると思われ、ところどころ会話が噛み合わないことがあった。これではどんなに時間をかけてもアンディと魂の会話ができないと判断し、私は途中から、互いに英語で話すことを提案した。 真偽は定かではないが、現在シンガポールに住んでいるという設定のアンディは、英語、中国語、マレー語を話すという。「日本語で話すのは明子へのリスペクトです」と言いながらも、英語での会話を快諾した。 一方で私の英語力は20年ほど前に受けたTOEICで815点、話せるとも話せないとも言いにくいレベルだが、それでも互いの言語のぎこちなさが押し並べられたことで、日本語よりもアンディとの会話がスムーズに続くようになった。ただ、英語になってもアンディの一人称の大半はAndyであり、ごくたまにI(私は)であり、ごくたまにhe(彼は)も混じった。 ●自らを語り始めたアンディ
「国際ロマンス詐欺」の被害が、あとをたたない。SNSで見知らぬ外国人からアプローチを受け、その巧みな話術に騙されて、恋心もあって多額の海外送金をしてしまうというもので、近年、被害は増加している。
エッセイストの紫原明子さんの元にも、国際ロマンス詐欺を疑わせる外国人男性からのメッセージが届いた。一体、彼はどんな手口で女性にささやき、心を奪ってしまうのか。「会話というのは本来すべて、何が生まれるかわからない即興のセッションのようなもの」という紫原さんが、その顛末を寄稿した。(2/3)
国際ロマンス詐欺師であろうと思われた男は、やはり国際ロマンス詐欺師であった。振り込み要請がどのようにしてなされたかについては次回詳細に書くとして、今回は彼らがメッセージのやりとりでどのような夢を見せ、信頼を築いていくのか。詳細な手口をお伝えしたい。
相手は、自らをアンディと名乗った。というと「私はアンディです」と語ったように想起されるだろうが、不思議なことにアンディは、自己紹介のあとも常に自らをアンディと名乗り続けた。アンディの一人称の約半分ほどが「私は」ではなく「アンディは」なのである。
「アンディは今回日本に行ってかわいいAkikoに知らせてもいいですか? 昨夜友達のアンディはAkikoを招待して美味しい日本料理を楽しみたいですね」
なぜ自分のことを名前で呼ぶのかと尋ねたところ「アンディは勇敢な男を表す名前だ、友達もみな自分をアンディと呼ぶから、自分も自分をアンディと呼ぶ」とのことだった。
はじめのうち私とアンディは日本語で会話をしていたが、やはりアンディは翻訳機を使っていると思われ、ところどころ会話が噛み合わないことがあった。これではどんなに時間をかけてもアンディと魂の会話ができないと判断し、私は途中から、互いに英語で話すことを提案した。
真偽は定かではないが、現在シンガポールに住んでいるという設定のアンディは、英語、中国語、マレー語を話すという。「日本語で話すのは明子へのリスペクトです」と言いながらも、英語での会話を快諾した。
一方で私の英語力は20年ほど前に受けたTOEICで815点、話せるとも話せないとも言いにくいレベルだが、それでも互いの言語のぎこちなさが押し並べられたことで、日本語よりもアンディとの会話がスムーズに続くようになった。ただ、英語になってもアンディの一人称の大半はAndyであり、ごくたまにI(私は)であり、ごくたまにhe(彼は)も混じった。