大葉の袋詰め1時間400円 夢と裏腹…技能実習生の劣悪な労働環境

1時間働いて400円しか得られず、医療機関の受診も許されない。そんな劣悪な労働環境から逃れ、居場所を失った外国人労働者が身を寄せる避難所(シェルター)が神戸市にある。新型コロナウイルス対策に伴う入国制限が緩和されて増加が見込まれる技能実習生だが、母国で抱いた夢と裏腹だった日本での生活に苦しむ人は少なくない。現場を取材した。
頭痛、めまい…病院での診察許されず
大きさが同じ10枚の大葉を探してゴムで束ね、10束を1袋に詰める。1袋40円の歩合制。慣れれば1時間で10袋となるが、時給に換算すると400円にしかならない。インドネシア人の女性(30)は自身の仕事をそう説明した。
特定技能の資格を持つ女性は愛知県の大葉農家と平日の午前7時~午後3時に時給960円で働く契約を結んだ。4月から働き始めたが、その契約は守られなかった。昼間の農作業が終わると、大葉が大量に入ったかごがアパートの自室に運び込まれ、袋詰めを指示された。
作業に手間取ると「ダメダメ。もっと早く」と大声で叱責された。大葉の匂いが苦手で、食欲不振や頭痛、めまいが起きた。病院での診察を希望したが、「そんな時間はない」と拒まれた。
3週間働いて、家賃などを引かれ手元に残った給料は4万円ほど。外国人労働者の問題に詳しい神戸大大学院の斉藤善久准教授は労働契約で定めた賃金に満たず、契約にない労働を強制されており「労働基準法に違反している」と指摘する。
女性は大葉の袋詰めに耐えられず退職を申し出たが、職場をあっせんした母国の仲介事業者から30万円の賠償金を求められ、「支払いを拒否すれば、警察に通報する」と脅された。相談した同胞の知人からシェルターの存在を知り、休日に宿舎を抜け出してバスで神戸市を目指した。
シェルターは、ベトナム人労働者を支援するNPO「日越交流センター兵庫」(神戸市長田区)が運営している。19年に職場と住まいを追われた技能実習生の仮住まいとして、3階建ての一軒家を確保したのが始まりだ。農家から逃れた女性は2階で生活。他にもいずれもベトナム人で2階に女性1人、3階に男性4人が暮らす。家賃は基本的に無料で、仕事に就いている場合はNPOに月5000円を支払う仕組みだ。これまで13人が入居し、帰国や就職で7人が退去した。
ブローカーの「ひどいうそ」
21年9月からシェルターで生活するベトナム人男性(32)は富山県の建設会社で働いていた。母国の銀行で約100万円を借り入れて、18年7月に技能実習生として来日した。建設会社の給料は手取りで8万4000円。男性は「ブローカーから『日本で働けばすぐに返せる』と言われたが、ひどいうそだった」と振り返る。
技能実習生は受け入れ先の会社に不正などの問題がある場合を除き、転職が認められていない。男性は故郷に残した長男(7)の教育費を稼ぎたかった。1年ほど働いた建設会社を抜け出し、親戚から紹介された神戸市内の靴工場で働いた。不法就労となり、収入は月約15万円に増えた。
でも、そんな状況は長く続かなかった。コロナ禍で勤務日数が減り、在留期限も切れた。途方に暮れて知人に相談し、シェルターにたどり着いた。今は同NPOの協力で滞在資格を得て、不用品回収や解体作業のアルバイトで生計を立てる。借金は完済したが、「いっぱい借りて返しただけ。手元には何もない」。妻と息子がいる母国に戻る準備を進めている。
失踪するケースも多く
技能実習生の受け入れは1993年、途上国への技術移転の名目で始まった。期間は3年までが多く2019年は過去最多の41万972人が滞在。コロナ禍で減少し、21年は27万6123人となった。今春、入国制限が緩和されて再び受け入れが可能となった。6月1日からは制限が更に緩和されるため、増加が見込まれている。
19年施行の改正入管難民法で、人手不足が深刻な農業や外食業など14の産業分野を対象とする新たな在留資格「特定技能」が設けられた。技能と日本語の試験合格か、実習の修了が条件で一般的に取得から最長5年の滞在が認められる。入管庁によると、3月末時点で6万4730人が「特定技能」で日本に滞在しており、国籍・地域別ではベトナムが4万696人と最多だった。79%が技能実習生からの移行組で、コロナ禍で来日できなかった新たな技能実習生の代わりとして、企業の人手不足を補う。
法務省によると、21年に監理団体などから失踪届けがあった技能実習生は、20年比1282人増の7167人。職場での暴力や給与未払いなど労働環境の問題や、借金を返済できる期待通りの賃金が得られないために失踪するケースが多いとみられている。
同NPOの鳥本敏明理事(74)は「事情を抱えて職場を離れても『失踪者』の扱いになって、行政の支援を受けにくくなる」と指摘する。行き場を失った技能実習生が集まって、借金返済や生活のために窃盗などの犯罪に手を染めるケースがあるとし、「犯罪を防ぐためにも避難先が必要だ」と話す。【大野航太郎】