マネックス証券は今年20周年を迎えた。併せて、4月1日付で社長となったのが清明(せいめい)祐子氏だ。就任から半年、強みとしている米国株の領域で、取引最低手数料の値下げに踏み出すなど、攻めに転じている。一方で、口座数や預かり資産残高では、SBI証券や楽天証券が先行する。東証の売買高も低調で、業績的にも楽観はできない。
米国株についてどう強化し、またグループに入った仮想通貨取引所コインチェックとの連携をどう進めていくのか。清明社長に今後の戦略を聞いた。
力を入れるのは米国株
ーー日本株の取引は現在業界全体で低調で、マネックス証券も直近の業績は厳しい。今後、どういった戦略で伸ばしていくのか?
お客さまは日本株を取引される方が多いので、日本株のサービスは常に改善しなくてはいけない。いま国内のマーケットは、昨年末くらいに株価が落ちて、そこから上がってこない状態。株価だけでなく、ボリューム、流動性がすごく減っている。9月に入って少し良くなったが、売買高が東証全体で1兆数千億だとどこの会社もしんどい。
しかし、マーケット全体が低迷している中でもキラリと光る会社はある。そういうときに適切な会社を選んでもらえるように、「こういう株価なので配当利回りに注目してはいかがでしょうか?」という提案や、そうした会社を選定できる大ヒットツール、「銘柄スカウター」などを提供している。
どんなときでも未来を見て、うまく取引できるような情報提供、セミナー、ツールを出していく。
ネット証券は、品そろえを多くという形で成長してきたが、今後はお客さまのニーズを捉えて分かりやすく選んでもらえることが大事だ。スマホの時代なので、スマホのUIやUXも改善していなくてはいけない。
どうしても日本株はマーケット依存度が高い。我々は何に力を入れているかというと、米国株だ。市場で見ても、米国市場は世界の半分を占めていて、ドル資産抜きに資産形成、資産運用は考えられない。
マネックス証券ができた20年前は、世界の時価総額の上位10社、20社に日本企業が入っていたが、今は米国企業が並んでいる。一般の人が耳にする企業も米国企業が多い。米国株を資産形成、資産運用に取り入れてもらうことが大切だ。
7月からは米国株の最低手数料を引き下げることを決めた。より身近に感じてもらい、気軽に米国株を手にとってもらえる環境を作っていく。米国株は1株から投資ができ、最低手数料を撤廃したので、手数料負けを考えずに投資ができるようになった。
米国株をポートフォリオの一部に入れてもらえるよう、情報提供を行ったり、高配当銘柄やETFのお勧めをまとめたりしている。これまで日本株頼みだったところをちょっと広げて、米国株を普通に手に取ってもらえる世界を目指している。
ーーマネックス証券は早期から米国株の取り扱いを始め、米国株ならマネックスという定評がある。一方で、他社も取り扱い銘柄を拡充している。
数でいっても、我々は3400銘柄くらい扱っている。他のネット証券は2000銘柄程度。また、Uberなど大きなところは上場初日から各社が扱っているが、当社は小さなところでも上場初日から扱っている企業が多い。先日上場した、歯並びの矯正を行うスマイルダイレクトクラブも当社しか扱っていない。IPO銘柄もできるだけ早く取り扱う。
テクニカルな話だが、プレマーケットやアフターマーケットも扱っているので、場が開いていない時間でも注文が出せる。逆指値ができるのも当社だけだ。(米国市場が開いているのは)夜中なので休みたいし、米国はストップ高、ストップ安がないので、逆指値が活用できる。
何より大きいのはスマホのアプリがあること。ベッドに寝ながらスマホで取引ができるのは大きい。米証券会社のTradeStationというグループ会社があるので、優位性はある。
米国株は株式預かり資産の約1割
ーー預かり資産に占める米国株の割合は?
米国株の取り扱い量は伸びているが、日本株に比べるとまだまだ。当社の預かり資産は、株やMRF、投資信託も入れて平均4兆円だが、(米国株は)株式の1割程度。だから潜在的な伸びはある。20年間で日経平均はちょっと上がったが、まだ(株価のチャートは)寝ている。一方で、米国株は上がっている。米国株の潜在力はあると見ている。
ーー最低手数料を撤廃したが、売買額の0.45%という根本的な手数料は変わっていない。
現在、導入していること以外に決めていることはない。手数料については、米国株に限らず、最適な手数料があると考えている。今後、例えば米国株の取引が広がって、ボリュームが増えていくと(手数料についても)検討できる。現時点では、まずは裾野を広げて、いろんな方に手に取ってもらえることを試みたくて最低手数料を引き下げた。
そもそも最低5ドル、最高20ドルという設定にしたのも、ネット証券の中では我々が早かった。今回最低手数料引き下げを最初に取り組んだが、米国株についてはいろいろ先行してやっていきたい。
ーー日本株については詳細な銘柄選定ツールを提供しているが、強みである米国株の銘柄選定ツールは?
「そうしたことも必要だよね」ということは話している。配当でまとめたり、業種でまとめたりという情報提供はできているが、株主優待検索ツールのように、銘柄選定ツールはない。ほしいと思う。
ーー3月には日本株の一般信用取引のサービスを開始した。狙いはどこにあるのか。
当社のお客さまの志向は中長期に持たれる方が多く、どちらかというと現物志向。
この20年、お客さまの資産を増やしていくためにいろいろな情報やツールを提供してきた。昔は資産形成といえばマネックスという時代があった。クルクルと回転売買してもらって手数料でもうけるのではなく、いっしょにお客さまと育っていこうというカルチャーだ。結果的に、中長期のお客さまが他社に比べて多い結果になっている。
この3月からは信用取引にも力を入れている。日本株の取引をしている方が中心なので、信用取引のサービスも拡充させていく。もともと、信用取引のシェアは低いので、取りに行くというつもりでやっている。
アクティブなユーザーは、いなかったわけではないが少なかった。アクティブな方にもマネックスって使いやすいね、トレードできるねというようにしていきたい。「トレードステーション日本株」という、超アクティブな方向けのツールも日本に持ち込んでやっている。
資産形成層だけではなく、活発に取引をやっている人にもサービスを拡大していく。
ーー一般信用のスタート時は、優待取得目的のつなぎ売りを行う人からの注目があった。
つなぎ売りは一定のニーズがある。株主優待が取りたいが、株価の先行きに不安がある、そういった方が、つなぎ売りを使う。一定のニーズがあることは分かっている。優待の権利取りをしたいお客さまに向けて、在庫を一生懸命集めている。
ーーネット証券各社が関連する銀行との連携を進めている。マネックスの方針は?
どこの銀行というのがないのが特徴だ。静岡銀行は、マネックスグループの株主だが、われわれはネット証券なので、静岡銀行とひも付けるのは、お客さまにとっても違和感がある。静岡銀行とすごく連携させようとは思っていない。銀行取引という観点で仲介もしているが、他の銀行と同じだ。
マネックス証券は、さまざまな銀行と取引できる。お客さまも使っている銀行はさまざまで、どこの銀行が多いということもない。地方のお客さまもいるので、メインバンクは地方銀行のこともある。
証券のプラットフォーマーとして考えると、いろいろな銀行と連携できていくほうがユーザー体験としてはいい。お客さまから見たときに、利便性が高いことを目指していきたい。
ーー買収した仮想通貨取引所のコインチェックとの連携の方針は?
まさにこれから。マネックスポイントを使った連携を4月から始めた。小さな話だが、全国投資セミナーといって、年間10回くらい地方で対面型セミナーを行っている。そこにコインチェックもブースを出したところ、関心を持ってくれる人が多い。新しいアセットとして興味を持っている人が多いという実感がある。
足元は、FATF(ファトフ:マネーロンダリング対策やテロ資金対策を行う政府間機関)の話など、いろいろ対応しなくてはいけないことが両社にある。5月には資金決済法の改正法案、金商法の改正が国会を通った。暗号資産デリバティブ、STO(証券のブロックチェーン上でのトークン化)など少しずつ枠組みが整理されてきている。お客さまから見たときに、よりシームレスに、分断されておらずストレスない形で、一つの資産ポートフォリオの中に(マネックス取り扱い商品と、コインチェック取り扱い仮想通貨の)2つを組み入れられるかがポイントだと思っている。
業法の問題もあるので、さまざま整理しなくてはいけないが、何よりお客さまから見たときに欲しいものがストレスなく買える世界を作りたい。
ーーマネックス証券とコインチェックの顧客の重複は?
ほとんどない。マネックスのお客さまがざっくり40~50代、コインチェックは20~30代が多い。マネックスポイントを仮想通貨に交換できるようにしており、そのときコインチェックの口座の有無を確認しているが、(既存の顧客は)意外と少ない。
連携はできるところまでやりたい。(本人確認の簡易化や預かり資産の共有などは)面白いとは思っているが、業法の問題も踏まえながら、検討していきたい。資金の問題もそうだし、口座を開くところもそうだが、入り口から出口、ちゃんと取引ができるところまでスムーズな形でやっていきたい。
ーー他社との差別化はどこで図っていくのか?
足元の差別化で大きいのは米国株だ。金融は商品の差がなくて、ラインアップはどこの会社も差がない。そんな中で、米国株についてはマネックスはサービスも優位なので、もっともっととがらせていきたい。
商品ラインアップが変わらない中で力を入れていくのは、セミナーやツールだ。「銘柄スカウター」などは他社のお客さまも使っている。セミナーも、買ってほしいものを売るのではなく、中立的に忠実にお客さまの状況を踏まえて、情報提供できているのではないかと思う。
これまで機関投資家しかできなかった貸株サービスを、最初に始めたのもマネックス証券。IPOをネット証券で初めて提供したのも当社だ。個人投資家がしっかり投資活動できるための環境整備や、機関投資家にしか使えなかった情報やサービスを、個人の方にも提供しようとやってきている。
ーー他社が提供していなかったデリバティブ商品は?
ニーズ次第だ。デリバティブだと成功したのはFXだと思うが、次にくるのは仮想通貨デリバティブ(CFD)かもしれない。難しすぎるとお客さまは買わない。そことの兼ね合いだ。
こういう商品が面白い、あったらいいというのは常に考えている。例えばAIを使ったサービスで、「トレードカルテFX」というのがある。AIはなかなかサービスとして提供するのは難しいが、お客さまのトレードの癖、トレードがちょっと早い、ちょっと遅いなどをAIで見てみるものだ。これは一例だが、常に何か取り入れて良いものを作っていきたい。基幹システムも内製化していて、自社で作り上げていく思いがある。