「今後はLINEで」から急変 わいせつ被害女性が明かした医師の手口

「まさかクリニックの先生からそんなことをされるとは思わなかった」。東京都内に住む30代女性は、通院していた精神科の医師から自宅に来るように誘われ、尻などを触られる被害にあった。医師は東京クリニック(新宿区)の院長を務める伊沢純容疑者(52)で、この女性に対する強制わいせつ未遂容疑で警視庁に13日に逮捕された。他にも複数の女性患者がわいせつ目的で伊沢容疑者の自宅に連れ込まれた疑いがある。診察からわいせつ行為にいたる手口について、今回の逮捕容疑の事件で被害を受けた女性が毎日新聞の取材に明らかにした。
新型コロナウイルスの感染拡大に伴う緊急事態宣言の発令などを受け、この女性が新宿区内で経営する飲食店は長期間にわたって休業を余儀なくされた。大きく収入が減少した不安から眠れない日が続き、体重は10キロほど減った。友人から「病院で睡眠薬をもらったら」と助言され、インターネットで偶然見つけたのが東京クリニックだった。
2020年秋、初めて同クリニックを訪れた。応対した院長の伊沢容疑者に眠れないことを伝えると、「薬を出しますね」と言われ、精神安定剤や睡眠薬5~6錠を処方された。淡々と対応する人との印象だった。その後、毎月1回、クリニックに通うことになった。症状が一向に改善しないことを伝えたところ、「薬を増やしましょう」と一度に処方される薬は20錠ほどに増えたが、伊沢容疑者の接する態度は変わらなかった。
だが、21年4月9日の受診時は少し違った。伊沢容疑者は、女性が電話で診察の予約をしていることに触れ、「今後はLINE(ライン)で連絡をくれたらいいよ」「こまめに相談に乗るから連絡先を教えてよ」と言ってきた。言われるがままに連絡先を交換したところ、その日から「何してますか」「かわいいですね」などとメッセージが送られ、急にプライベートに踏み込んでくるようになった。2日後には突然「ご飯を食べましょう」と誘われた。そのメッセージを最初に見た時は「ちゃんとご飯を食べるように」とアドバイスされたと誤解し、「はい」と返事をしてしまった。その後、食事の誘いだと分かったが、「体調を心配してくれるいい先生なのかもしれない」と感じ、全国チェーンのステーキ店で同月24日に食事をすることになった。
当日は直前に診察を受けたが、「診察代はいらないよ」と言われ、治療費は払わなかった。診察以外で会うのは初めてだったが、伊沢容疑者は自分の趣味の音楽の話をするなど、たわいもない話をして時間は過ぎていった。伊沢容疑者は親しげでフランクな話しぶりだった。ただ、この店は、新型コロナ対策で酒類が提供されていなかったため、伊沢容疑者から「一杯付き合ってほしい」「病気の相談に乗るよ」と自宅に来るように誘われた。女性は伊沢容疑者が親身になって相談に乗ってくれていると感じており「断りづらいな」と思った。午後8時半ごろ、伊沢容疑者の自宅である新宿区歌舞伎町のマンション一室に入ることになった。
30分ほど雑談していたが、ワインを2杯ほど飲んだ伊沢容疑者は突然「好きになっちゃった。いいことしようよ」などと言って近づいてきた。それまではいたって紳士的な対応だったので驚いた。ジーンズの上からいきなり尻を触られ、さらにTシャツの中に手を入れられた。女性はすぐにその場を離れ、「やめてください」と強く拒否したが、部屋の隅まで追いかけてきた。時間を置いてそうしたやり取りを3回ほど繰り返した。執拗(しつよう)にわいせつ行為をしようとする伊沢容疑者に恐怖を感じ、「眠たいので帰ります」と訴え、何とか部屋から出ることができた。その際、伊沢容疑者はタクシー代のつもりなのか「これを使って」と1000円札を取り出した。それをつかんでマンションを飛び出し、タクシーで帰宅した。
伊沢容疑者の部屋にまで行ったことを悔やんだ。
受診時に保険証を提出するなどしていたため「ストーカーなどされたら怖い」と感じ、翌日には警視庁に相談した。クリニックには二度と行く気はなかったが、その後も伊沢容疑者から「クリニックに来ないの? 待ってますよ」などとメッセージが届いた。「罪悪感は全くないんだな」と改めて憤りを感じたという。
「元気になるために受診したのに、さらにつらい思いをすることになり許せない。二度と医師として診療をしてほしくない」。女性は語気を強めた。
伊沢容疑者は今月13日に逮捕された。「こういうことはしていません」と容疑を否認しているという。逮捕は今年3月以降で5回目。このうち、今年2月に同居していた患者の20代女性に暴行してけがをさせたとする傷害罪と、21年9~10月に元患者の20代女性に関するうそのメッセージを家族の勤務先に送ったとする名誉毀損(きそん)罪で起訴されている。今年3月に診察中に20代女性の胸を触ったとする準強制わいせつ容疑と、同月に自宅で覚醒剤を持っていたとする覚醒剤取締法違反(所持)容疑については処分保留となっている。
新宿署は、伊沢容疑者がわいせつ目的で複数の女性患者に「薬を処方してあげる」などと言って自宅に誘っていたとみて調べている。【木原真希】