生活に欠かせない宅配を、最前線で支える個人事業主のドライバー。コロナ禍の巣ごもり需要で荷物が増える中、主に個人ドライバーが宅配で使う黒ナンバー車(事業用軽貨物車)の事故が急増している実態が明らかになった。専門家からは対策を求める声が上がる。(松本裕平、森安徹)
1日200個
昨年10月、神奈川県内の住宅街の交差点で、帰宅中の当時小学2年の男児(8)が、黒ナンバー車にはねられた。男児は頭に大けがを負い、救急搬送された。
運転していた個人ドライバーの女性(20歳代)は4月、取材に「荷物が多くて急いでいて、よく見ていなかった」と打ち明けた。
女性が宅配の仕事を始めたのは事故1年前。普通運転免許を取得した翌月、県内の運送会社と業務委託契約を結んだ。「経験がなくても、ある程度の収入が得られるのが魅力」と話すが、朝から夜まで荷物は200個を超える日もあり、休憩を取る余裕はほとんどない。
事故当日も荷物が多く、交差点で一時停止したものの、右から来た男児に気づかなかったという。
女性は免許停止処分となったが、4月、仕事を再開した。「ハンドルを握ると緊張する。でも、ほかの仕事では十分な収入が得られない」と話す。男児の父親(38)は「息子は今も車を怖がっている。委託している運送会社も安全を考えてほしい」と話した。
「軽だけで」想定せず
個人ドライバーは、雇用されたドライバーと比べ、労働と運送の二つの法律で異なる扱いを受けている。
雇用されたドライバーは、労働基準法に基づき、運転時間や拘束時間の上限がある。しかし、個人ドライバーは労基法の対象外で、労働時間の規制はない。
労働組合「軽貨物ユニオン」が個人ドライバーを対象に昨年実施した調査では、回答があった83人の4分の1が、1日の労働時間が12時間以上と回答。半数が週6日以上働いていた。
貨物自動車運送事業法でも、普通や大型などの貨物車(緑ナンバー車)での運送業は国の許可と5台以上の車が必要で、ドライバーとは別に運行管理者を選任しなければならない。しかし、黒ナンバー車は個人が届け出るだけで始められ、運行管理者の選任や、運輸局への事故の報告義務などもない。
1971年までは自動車運送業は一律免許制だったが、国が許認可事務を整理する中で、同年に道路運送法が改正され、軽自動車が除外された。当時、軽自動車だけでの運送業が想定されていなかったためだ。
しかし、ネット通販の普及で、主な宅配業者の取扱個数は2020年度に約48億個と10年前の1・5倍に増えた。黒ナンバー車は物流業界で欠かせない存在となっている。
都市部に集中
参入が容易なため、事故データからは経験の浅いドライバーが事故を起こしている状況が浮かぶ。
21年に黒ナンバー車が第1当事者となった事故4616件のうち、12・4%(576件)のドライバーは運転免許取得後3年未満だった。3年未満の割合は年々増え、事業用大型貨物(2・5%)や中型貨物(3・5%)より高かった。
神戸市灘区では20年11月、阪急神戸線の踏切内で特急電車が黒ナンバー車と衝突し、脱線する事故が起きた。運輸安全委員会の事故調査報告書などによると、運転していたのは宅配中の個人ドライバーの男性(43)で、仕事を始めて6日目だった。「慣れていなかった」と話したという。
事故は宅配需要が高い都市の住宅街に集中している。
警察庁が「オープンデータ」として詳細に公表している19~20年の事故約69万件を分析したところ、黒ナンバー車が絡む事故の64%が、1平方キロ・メートル当たりの人口が4000人以上の「人口集中地区」(国土面積の3%)で発生していた。事故の半数が市町村道で起きており、3分の1は車道の幅が5・5メートル未満の「生活道路」で起きていた。
こうした道路で、駐車と発進を頻繁に繰り返していることも事故多発の一因とみられる。
国土交通省は「黒ナンバー車の事故が増えている実態は把握していなかった。必要があれば対策を検討する」としている。
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