新型コロナウイルス対策の持続化給付金などの支給対象から性風俗業者を除外した国の規定の憲法適合性が争われた訴訟で、東京地裁は30日、合憲とする判決を言い渡した。岡田幸人裁判長は「規定の目的には性風俗業者と他の事業者を区別する合理的根拠があり、法の下の平等を保障した憲法14条に違反しない」と判断した。支給対象から性風俗業者を除外した国の対応を巡る司法判断は初めて。原告側は即日控訴した。
原告は、関西地方の無店舗型性風俗店(デリバリーヘルス)の運営会社。職業差別を受けたとして国に150万円の賠償を求め、ともに中小企業庁が所管する持続化給付金200万円と家賃支援給付金約100万円の支払いも求めたが、地裁は計約450万円の請求を退けた。
判決はまず、行政は給付金の支給基準の策定について他の施策や納税者の理解などを踏まえ、合理的な裁量を委ねられていると指摘。性風俗業者の法的位置付けや社会での認識について検討し▽風俗営業法は性風俗店の営業禁止地域を設け、違法行為には直ちに行政処分や刑事罰で臨めるよう規制するなど、他の業種と区別している▽一時の性的好奇心を満たすような営業が、公の機関の公認の下に行われることは相当でないと広く国民に共有されている――などと示した。
その上で「国庫からの支出で性風俗業者の事業継続を下支えすることは、大多数の国民が共有する性的道義観念に照らして相当でない」とし、性風俗業者を一律に支給対象から除外したことについて「不合理ではなく、行政の裁量の範囲内」と判断した。一方で、「性風俗業の事業者や従業員は個人として尊重されるべきで、職業に基づく差別は許容されない」とも言及した。【遠藤浩二】
国側「性風俗業者は本質的に不健全」主張
原告の運営会社の代表を務める30代女性は「職業差別解消」を訴えて裁判を起こしたが、東京地裁のこの日の判決を受け「心ない判決だ」と憤った。
女性は10代の頃に無店舗型性風俗店で働き始め、その後、自ら会社を起こした。風俗営業法に基づき警察に事業を届け出て、法人税も納めてきた。2020年4月に初めて緊急事態宣言が出されると、自治体からの要請に従い休業した。シングルマザーの従業員からは「生活できない」との声が上がったが、「コロナを収束させることが第一」と従ってもらった。
性風俗業者が持続化給付金などの対象外となり、国から「救う価値がない職業」と言われているようで涙が出たという。弁護士事務所を訪ね歩く中で、今回の訴訟の代理人を務めることになった平裕介弁護士と出会い、同年秋に提訴した。
訴訟で国側は「性風俗業者は本質的に不健全。国庫からの支出で給付金を支給することは国民の理解を得られない」と主張したことに、女性は耳を疑った。だが、判決は同様の理由で「合憲」を導いた。女性は判決後、「職業には貴賤(きせん)があるとした判決で非常に残念。憲法は飾りではないはず。心折れることなく闘っていきたい」と語った。平弁護士は記者会見で「司法の役割を果たしていない不当判決だ」と述べた。
新型コロナ対策としての経済的支援は、性風俗業者を対象とするか否かで省庁間でも対応が分かれた。企業が従業員を休ませた場合に国が休業手当の一部を補(ほてん)する「雇用調整助成金」と、子どもが臨時休校になった保護者を支援する「小学校休業等対応支援金」は当初、性風俗業者は対象外だった。しかし、性風俗業に関わる人たちを支援する団体の陳情を受け、所管する厚生労働省は支給対象とするよう見直しており、同省担当者は「雇用や生活を維持することが目的のため、業種に関わらず支給しようとなった」と説明する。
京都大の曽我部真裕教授(憲法)は「判決は合理性の判断にあたり、過去の判例に沿って国の裁量を広く認めており、国側の言い分をうのみにした印象だ。『国民の理解』を合憲とした理由に挙げたが、性風俗業は大きな産業であり、本当に国民にそうした理解があるのか判断過程が示されていない。性風俗業者は狙い撃ちのように支給対象から外されており、不支給とした国の規定を違憲とする余地もあったのではないか」と話した。【遠藤浩二、遠山和宏】