長崎県は5日、原爆投下後の長崎でも降ったという証言がある「黒い雨」について検証し「実際に降雨があった」などと結論づけた専門家会議の報告書を厚生労働省に提出した。黒い雨を巡っては、厚労省が2021年7月の「黒い雨訴訟」広島高裁判決などを受けて広島の原爆では新たな救済基準を設けたが、長崎は「降ったとする客観的な記録がない」として対象外にされている。長崎では被爆時、国の指定地域外にいて被爆者と認定されない「被爆体験者」の救済が長年の問題で、今後の協議に影響する可能性がある。
専門家会議は京都大複合原子力科学研究所の五十嵐康人教授ら4人の委員で今年2月に設置され、長崎市などが1999年度、被爆当時の住民8700人を対象に実施した証言調査の結果などを再検証した。証言は「平成11年度 原子爆弾被爆未指定地域証言調査 証言集」として公表されており、長崎県側は被爆体験者などの救済拡大を巡る国との協議でも示してきたが、国は「調査には客観性がない」と退けていた。
同会議は、証言調査では黒い雨に関する具体的な質問がなかったにもかかわらず、得られた証言7025件の中に雨に関する証言が129件あった点に着目。降雨証言者が当時の旧矢上村と旧古賀村に集中していることなどから「統計的な有意差(偶然とは考えにくい差)が認められた。実際に降雨があったと解釈できる」とし、証言調査の結果は原爆投下後、長崎でも雨が降った客観的な記録といえると結論づけた。
更に、原爆投下後の長崎で米軍などが広範囲にわたって残留放射線を測定した結果も踏まえ「少なくとも雨や灰などに関する証言が得られた地域では放射性物質が飛散した」と指摘。黒い雨だけでなく降灰なども放射性降下物と捉える必要があるとした。
厚労省は、被爆体験者が被爆者健康手帳の交付を求めた過去の訴訟で敗訴し、最高裁判決が確定したことも長崎を救済対象外とする理由に挙げている。しかし専門家会議は「(最高裁はこの判決で)法律的判断を示したのではなく、判例に該当しない」「長崎で黒い雨に遭った人を手帳交付の対象とすることとは矛盾しない」などと指摘した。【高橋広之、樋口岳大】
「被爆体験者」救済も要望
長崎県の平田修三副知事と長崎市の田上富久市長らは5日、厚生労働省で佐藤英道副厚労相に専門家会議の報告書を渡し、被爆時、国の指定地域外にいたため被爆者と認定されていない「被爆体験者」の救済を求める要望書も提出した。
同県は大石賢吾知事が上京する予定だったが、この日午前、長崎に上陸した台風4号などへの対応を優先し平田副知事に代わった。
要望書では、「黒い雨訴訟」判決などを踏まえて救済の間口を広げた今年3月の厚労省通知が「広島で黒い雨に遭った者のみを対象とし、長崎は対象外となっている」と指摘。「新基準は広島、長崎を分断し被爆者援護法の理念にもそぐわない」と批判した上で「広島の黒い雨体験者と同様、高齢化が進み病気に苦しむ長崎の被爆体験者も(被爆者)認定・救済してほしい」と要望した。
面会後の記者会見で、田上市長は「報告書には専門家会議の意見が反映され、援護の拡充に向けて前進する契機になる。(未救済の住民たちは)時間がない」と語った。
厚労省原子爆弾被爆者援護対策室は報告書について「内容を精査し、分析していく」とコメントした。【高橋広之】
「黒い雨」問題に詳しい長崎県保険医協会の本田孝也会長
専門家会議の報告書は、原爆投下後に降った雨の証言について集落ごとに細かく分けて分析するなど説得力がある。雨だけでなく広い地域に降った灰も放射能を帯びていたと指摘し、被爆時、国の指定地域外にいた人も被爆者だという住民の主張を裏付ける内容になっている。この報告書を踏まえれば、国が「客観的資料がない」と主張し続けるのは無理があるだろう。