「警備は結果がすべて」と言われる。今回の警備体制に問題はなかったのか。警察庁は「これから検証する」としているが、同庁警備局や奈良県警の責任問題に発展する可能性もある。
殺人未遂容疑で逮捕された山上徹也容疑者は、演説中の安倍晋三元首相の背後から忍び寄り、警護担当者の〝死角〟から至近距離で狙撃した。
原則的に、首相経験者の警備は議員を辞職するまで警視庁のSP(警護官)が1人つく。
前日(8日)の夕方、安倍元首相の来県を把握した奈良県警は、警備部参事官をトップとした警備体制を敷き、聴衆などの雑踏警備を奈良県警が担当。警視庁のSP1人と複数の県警警護担当者が身辺を警戒していた。
映像で見る限り、安倍元首相の背中側はガラ空きで、山上容疑者の接近を許していた。また、有事にはSPが警護対象者の体勢を低くし、自らの体を盾にして覆うような姿勢を取るが、安倍元首相は致命傷となる2発目を被弾している。
安倍元首相の地元・山口県では、現在でも県警警備部と下関署が24時間体制で私邸に複数の警察官を常駐させているほか、お国入りの際は現職時代と同様の車列を組んで警備していた。
事前に地元事務所から提出された日程表を元に、実査して警備計画を作成。当日はリアルタイムで送信されてくる現場の映像を県警幹部がすべてチェックする念の入れようだった。県警幹部は「安倍元首相の再登板もにらみ、警備体制は緩めなかった」と説明する。
日本大危機管理学部の福田充教授は「SPの数などは、元首相の地方遊説としては一般的だったのかもしれないが、結果的には至近距離から撃たれており、批判は免れない。要人の遊説を、先進7カ国首脳会議(G7サミット)や五輪に準ずるレベルで厳重に警備するべき案件と捉え直すべきだ」と話した。