安倍氏銃撃 警視庁元SPが痛恨「2発目までに時間があったのに…」「ありえない」

安倍晋三・元首相(67)が8日、参院選の応援演説を行っていた奈良市の近鉄「大和西大寺」駅北口前で銃撃され死去した事件。犯行現場の映像には、殺人未遂容疑で現行犯逮捕(殺人容疑に切り替えられて送検)された山上徹也容疑者(41)が、約5メートルの距離から手製の銃で2発の銃弾を浴びせる様子が記録されている。山上容疑者は、安倍氏の後方にあった車道を挟んで十数メートル離れた場所で、しばらく演説を聞いた後、歩いて車道を渡り、ゆっくり背後に近づき、警察官に制止されることなく犯行に及んだ。
現場では、奈良県警の警備部参事官をトップとする態勢で指揮がとられ、県警本部や奈良西署の警察官に加え、東京から随行している警視庁警護課のSP(要人警護官)1名が安倍氏の警護に当たっていたという。
かつて総理大臣の警護を担当したこともある警視庁元SPは、今回の警護体制についてこう悔やむ。
「現職の総理には警護チームが組まれて囲みますが、前総理ではSPが2名ほど、安倍さんのように前の前の元総理だと1名になります。安倍さんのSPは新幹線などでも近くに座って警護を行ないます。
奈良での演説は前日の夕方に決まったといいます。そうすると、安倍さんに張りついているSPには県警と警護計画を検討するような時間はなかったのだと思います。今回の警備には、要人警護を学んでいない奈良県警の警察官が多く動員されたことが推察されます」
こうした警護体制のなか、発砲があった瞬間の動きについて「ありえない」と元SPが指摘する。
「少なくとも犯人が前に出てきた瞬間に、後方を警戒していた人間がまず飛び出すべきです。そして、1発目が発射された時にSPの人間は、安倍さんに覆い被さらないといけない。そうしたことはSPになった時から叩き込まれているはずなのに。なぜ、そうした行動がとれなかったのか。犯人が2発目を撃つまでに時間もあったのに……」
この日、安倍元首相を警護する人員は現場に20~30人いたとされるが、奈良県警は現場配置を含む警備体制の詳細を明らかにしていない。元SPは日本ならではの要人警護の“限界”についても指摘する。
「日本だと銃は手に入りにくいから、主に想定されるのは刃物を持った人間からの要人警護となります。なので、そもそも今回のような拳銃による犯行はあまり想定されていないのです」
この元SPが任務に当たっていた時代と現在の警護体制に違いはあれど、一国の元リーダーが演説中に背後から撃たれて死亡するという映像に、ネット上でも発砲時の行動に対する疑問の声も少なからずあがっている。
実業家のひろゆき氏は今回の事件現場の状況を受けて、犯行に使われた銃が手製のものだったことから「現場で起きた“銃声”は市販される銃の発砲音とは違う音です。素人が『最初の銃声を聞いたら動ける』とか言いますが、銃声と断定してるのはただの結果論だ」「犯人が複数で、共犯者が刃物を持っていたら安倍元首相を押し倒すことは刃物によるさらなる攻撃を招く恐れがある」と持論を展開している。
映像を見ただけで現場の警察官らの動きがすべて把握できるわけではなく、映像のみで非難することは難しいのかもしれないが、少なくとも言えるのは、演説場所の選定ミスや犯人側の不自然な動きを察知することができなかったという点で、根本的な警備体制に不備があったということだろう。
今後、同じ悲劇が繰り返されないためにも早急な対策と改善が求められる。