9日に没後100年を迎えた文豪・森外(1862~1922年)の代表作の一つ、伝記文学の「渋江抽斎(ちゅうさい)」の自筆原稿の一部が見つかった。同作では初めてとみられる。東京都文京区の区立森外記念館が14日発表した。
同作は弘前藩医で、漢学や国学の考証学者でもあった渋江抽斎(1805~1858年)の伝記。毎日新聞の前身、東京日日新聞と大阪毎日新聞で1916年1~5月に119回にわたって掲載された。
今回見つかったのは「その四十九」全文と「その五十」のほぼ全文。けい線なしの縦20センチほどの洋紙に鉛筆書きされていた。新聞掲載の締め切り時間に間に合わせるため、本来は数枚にまとめられていた原稿を、複数の印刷工が手分けして活字化するために細断し、「その四十九」は13枚、「その五十」は11枚に分けられている。外の加筆や修正だけでなく、担当した印刷工のサインも原稿に書き込まれ、106年前の生々しい現場の息づかいが伝わってくる。
同館の塚田瑞穂副館長によると昨秋、原稿を所蔵していた人から「先代から受け継いだ森外の自筆とみられる原稿がある」と相談を受けたという。専門家や外作品に詳しい古書店などで鑑定した結果、外の自筆と判明した。文京区が280万円で原稿を購入し、同館に収蔵した。
鑑定に立ち会った外研究の第一人者、山崎一穎(かずひで)・跡見学園理事長によると、外の約1300点の著作のうち、これまで自筆原稿が見つかっているのは「舞姫」「曽我兄弟」「ノラ」などごくわずか。山崎さんは「新聞掲載に備え、細断された原稿を見たのは初めて。極めてまれな外の直筆原稿が発見された、という意義だけでなく、当時の新聞小説の掲載工程を知る上でも貴重な資料だ」と話している。
今回の自筆原稿は今年10月から来年1月まで、同館の特別展で公開する。【吉井理記】