12日夜から埼玉県西部の比企郡を中心に降った大雨で、浸水被害を受けた住宅は、鳩山町やときがわ町、東松山市など15市町で計94世帯に上り、土砂災害も4市町で11か所確認された。県が13日午後2時半現在でまとめた。各地で道路が冠水し、鳩山町では12日夜、車に取り残された妊娠中の30代女性が救助された。大野知事は13日午前、被害の把握を急ぎ、早期復旧へ支援策を検討する考えを示した。
鳩山町では、12日午後10時半までの6時間降水量が観測史上最大の360ミリとなり、平年の7月1か月分の2倍を超えた。鴻巣市と久喜市でも7月の観測記録を更新した。
東松山市では九十九川が氾濫し、県内で初めて最大級の避難警戒レベル5「緊急安全確保」を毛塚、田木地区の814世帯2091人に発令。避難指示も同市と坂戸市、ときがわ町で最大計1万1543世帯2万7167人に出た。いずれも13日朝までに解除された。
県がまとめた被害状況によると、大雨に伴うけが人は救助された妊娠中の女性1人で、腰から胸のあたりまで水につかり、低体温の症状で病院に搬送された。
河川の氾濫は九十九川や飯盛川、葛川の計4か所で発生。11か所で確認された土砂災害のうち、ときがわ町では裏山が崩れて住宅6軒が巻き込まれた。住人計10人は避難していた。浸水被害の住宅94世帯のうち、床上浸水は46世帯。道路の冠水もピーク時は少なくとも64か所で発生し、多くの車が水につかった。
交通網もまひし、鉄道はJR川越線や東武越生線が一時不通となった。学校も13日は小中高16校で授業が打ち切られたり、始業が繰り下げられたりしたほか、工場の浸水・停電で米飯の給食停止も16市町に及んだ。
垂直避難呼びかけ
記録的大雨に見舞われた鳩山町などでは13日、住民たちが朝から水につかった自宅の片付けに追われた。
「何から手を着ければいいのか」。泥で茶色くなった自宅の床を前に、同町赤沼の女性(65)は肩を落とした。雨が強まった12日午後7時過ぎ、避難しようとしたが、すでに1階は足首あたりまで浸水。「周囲も水浸しで、車が浮いていた。逃げられる状況ではなかった」。夜間の大雨で、町も避難指示の発令は見送り、防災無線やメールで高い所に逃げる「垂直避難」を呼びかけた。
バリバリ壁にひび
全域に避難指示が出たときがわ町の男性(70)は、雨が弱まった13日午前2時まで公民館で過ごした。自宅近くの沢は滝のようになったといい、「こんなのは初めてだ」と話した。同じ避難所で一夜を明かした住民(81)は、一人暮らしの自宅が裏山の土砂崩れに巻き込まれた。12日午後6時頃、バリバリという大きな音とともに壁にひびが入り始め、パニックで座り込んでいたところを救助されたという。「不安で体調も悪く、一睡もできなかった」。疲れ切った表情で話した。
越生町では、建築会社の倉庫が浸水。腰の高さまで水が入り込んだとみられ、建設資材が流された。萩久保左内社長(78)は「シャッターまでへし曲げられていた。使えなくなった資材も多く、被害額は見当もつかない」と頭を抱えた。
道路立ち往生次々
冠水した道路では、多くの車が立ち往生した。12日夜、職場から帰宅途中だった鳩山町の男性(70)は急激に水かさが増したため、脱出して近くの知人宅に逃げこんだ。東松山市の男子大学院生(24)は同日午後10時頃、坂戸市内の新葛川橋の上でほかの車とともに立ち往生。約2時間後、消防のボートに救助された。橋の上には13日朝、車7台が取り残されていた。
2019年の台風19号が教訓となった地域もあった。「緊急安全確保」が発令された東松山市毛塚地区では12日夜の早い時間帯から住民が車を次々と高台に移動させ、自宅1階の電化製品を2階に運ぶなどした。川沿いの住宅の多くは基礎が高い構造で、浸水被害はほとんどなかった。