銃撃事件で死亡した安倍晋三・元首相が率いていた自民党安倍派(清和政策研究会)で、会長を当面置かず、複数の有力議員による合議体を設置する案が浮上している。衆目の一致する後継者が見当たらない中、集団指導体制を整えることで分裂回避を優先したい思惑がある。
検討されている案によると、会長代理を務める下村博文・前政調会長を顧問とし、同じく会長代理の塩谷立・元文部科学相を合議体の代表役とする方向で調整する。合議体のほかのメンバーには、参院安倍派会長の世耕弘成参院幹事長、事務総長の西村康稔・前経済再生相、副会長の高木毅国会対策委員長、松野官房長官、萩生田経済産業相らの名前が挙がっている。
派内では従来、安倍氏の後継選びは中長期的な課題ととらえられていた。安倍氏は以前、下村、西村、松野、萩生田の4氏を将来の首相候補に挙げたが、自らの後継者を指名したことはない。4氏に競争させ、時間をかけて育成する意向だったとみられる。集団指導体制とした背景には、「ライバル関係の4氏から性急に誰かを選べば、不満が出て派が割れる」(派幹部)との事情があった。
世耕氏は12日の記者会見で「一致団結することが重要だ。一丸となって安倍氏の遺志を継ぐ」と強調。下村氏も11日のテレビ番組で「四分五裂しないようにしようと、みんな認識している」と語った。
清和研は、2000年の森喜朗氏以降、4代続けて首相を輩出し、所属議員が膨張した。人数が増えた分、まとまりづらい側面もある。
安倍氏が2度目の党総裁に返り咲いた12年の総裁選では、派閥会長だった町村信孝・元官房長官も出馬し、派内で競い合った。政策面でも、安倍氏が慎重だった選択的夫婦別姓に、派閥事務局長を務める稲田朋美・元防衛相が一定の理解を示すなど、必ずしも一枚岩とは言えない。
こうした事情から、安倍氏の死後、一時は森氏の裁定や前会長の細田衆院議長の復帰を望む声も出ていた。
集団指導体制となった場合でも、主導権争いが起きる懸念は残っている。実際、派内には「塩谷、下村の両会長代理を中心とするのが筋だ」との主張もあり、今後、合議体の構成を巡って曲折を経る可能性もある。
党関係者は「派閥がまとまっていたのは、安倍氏だからこそだ。集団指導体制と言えば聞こえはいいが、派内の意見対立が表面化すれば分裂は避けられないだろう」と語った。