被告救命の元主治医「謝罪させるため生かした」 続くリハビリ生活、公判にどう影響

京都アニメーションの放火殺人事件で、全身の約9割に重度のやけどを負い、「死亡率95%超」と診断された青葉真司被告(44)。最先端の皮膚移植手術の末に死地を脱し、事件から丸3年を経た今もリハビリ生活を続ける。公判に向けて具体的な調整も始まっておらず、長期化は必至だが、容体がどう影響するのか。元主治医で熱傷治療が専門の鳥取大病院高度救命救急センターの上田敬博教授(50)に見通しを聞いた。
青葉被告に施されたのは「自家培養表皮移植」と呼ばれる治療法だ。やけどを負わなかった腰部のわずかな皮膚の細胞を培養で増やし、シート状に加工して移植。事件2カ月後の令和元年9月中旬までに計5回の移植手術を終えた。翌10月上旬には呼吸器を外し、車いすでのリハビリや食事の経口摂取が始められるまで回復。2年5月の逮捕・送検後は、医療体制の整う大阪拘置所に勾留されながらリハビリを続けている。
上田教授は、退院後の青葉被告と一度も接してはいないが、「順調にリハビリが進めば、自分で立ったり歩いたりする訓練に入っていてもおかしくない」と解説。皮膚が突っ張るなど後遺症はあるが、「容体の悪化は考えにくく、身体面での心配はない」という。
一方、公判で厳しい求刑が予想される青葉被告が積極的にリハビリに取り組むかという懸念もある。「全身の筋肉が痩せ衰えている上、痛みもあって相当つらい。『死刑になるなら元気になっても…』と考えてもおかしくない」。意欲的だとしても、リハビリに制約がある拘置所生活は回復への足かせとなるはずで、上田教授は「自立して動けるようになるまで、最低でもあと数年はかかる」とみる。
青葉被告を巡っては、約半年間の鑑定留置を経て京都地検が2年12月に起訴。弁護側の請求で再度の精神鑑定が行われ、今年3月までに終わった。以降は公判に絡む表立った動きはなく、上田教授は「体力的にも精神的にも負担が大きい公判にどこまで耐えられるのか不透明だ」と述べる。
事件直後から約4カ月にわたり治療した上田教授は、被告との別れ際、「自分の罪から目を背けず、正面から向き合ってほしい」と伝えたという。「被害者や遺族に自分の口で謝罪の言葉を述べてほしい。そのために生かしたといっても過言ではない」と強調し、「事件への思いと記憶が薄らぐ前に、早く裁判を始めてほしい」と語った。(桑村大)