福岡「療育」NPO、障害児らに馬乗りで拘束 睡眠中に施設に連行

知的・身体障害者らの支援を手掛ける福岡市のNPO法人が、障害児らの「療育」や「生活改善」のためと称して自宅で寝ているところを拘束して運営する施設に連行したり、長時間馬乗りになって頭部を揺さぶったりする行為を繰り返していたことが、関係者への取材で判明した。NPO側は「保護者は承諾していた」との立場だが、複数の障害児らが負傷し、中には骨折したケースもあり、保護者からは疑問の声も上がっている。専門家は「不必要な身体拘束は虐待だ」と指摘している。
問題のNPO法人は福岡市早良区の「さるく」で、2008年6月設立。代表理事の男性が中心となり、障害児らの自宅を訪れて療育する「訪問セラピー」を実施している。
19年には児童福祉法に基づく障害福祉サービス事業所の指定を受け、福岡県久留米市天神町に障害児施設「くるめさるく」も開設。障害児らが学校外で生活支援を受ける「放課後等デイサービス事業」を展開している。久留米市によると、22年4月現在の登録者数は市内外の小中学生ら計約30人となっている。
施設は当初から、激しい自傷・他害や物を壊す行為などを繰り返す、重度の知的障害・発達障害の人を積極的に受け入れてきた。関係者によると、今回発覚した睡眠中の連行や馬乗りによる身体拘束も、そうした強度行動障害のある子供が中心だった。
「さるく」代表理事の男性は、ホームページやオンラインセミナーを通じて「発達障害の子供と保護者の最後のとりで」「(行動障害は)3時間あれば全て解決する」などと主張。強度行動障害に対応する人材や施設は限られており、育児の悩みを抱えた保護者らがSNS(ネット交流サービス)や口コミを通じて代表理事に相談を寄せていた。
しかし、実際には障害児に馬乗りになって頭を強く揺さぶったり、指示に従わないと頭をたたいたりする行為が繰り返されていた。馬乗りや体に覆いかぶさる状態での身体拘束は、3時間以上続けることもあったという。
ある保護者は、代表理事が自宅に出張する「訪問セラピー」を21年春に受けた際、長女が指の骨を折る事故が起きたと明かした。「病院や作業所にも通っているが、強度行動障害の改善は難しく、すがる思いで連絡した。(セラピーは)事前に具体的な説明はなく、従わなければ拘束する、恐怖で支配するやり方だった」と憤る。
代表理事がオンラインセミナーで公開したセラピーの動画を見た別の保護者も「子供は怖くておとなしくなるだけではないか、と違和感があったが、専門家と名乗る人から『これが正しい』と言われたら、保護者は信じてしまうかもしれない」と語る。
一方、代表理事は団体のホームページに「生活改善事業の廃止について」と題した文章を掲載。「私が子供たちに行った一時的な身体拘束は、本人の意思に反して自由を奪うものであり、刑事罰に相当する犯罪であることは明らか。深く反省しています」などと謝罪の言葉を載せている。毎日新聞は代表理事に取材を申し込んだが、16日までに回答はなかった。
権利擁護に詳しい、国学院大法学部の佐藤彰一教授は「身体拘束をしても行動障害の改善にはほとんど効果がなく、嫌な思いが残ってトラウマなど2次障害につながる。本来の療育とは、子供が自らできる体験を増やすことだ。切迫していない状況で身体拘束をするのは虐待であり、法律に抵触する可能性もある」と指摘する。保護者の承諾があった場合でも、睡眠中で無抵抗の障害児を施設に連行して拘束した場合は逮捕監禁や暴行などの罪に当たる恐れもあるという。
くるめさるくを巡っては21年11月、通所していた男児に馬乗りになって顔面を殴るなどしたとして、40代の女性職員が福岡県警に暴行容疑で逮捕された。職員は処分保留で釈放されたが、県警はその後施設を捜索し、組織的な関与の有無など捜査を続けている模様だ。【佐藤緑平】