奈良市で街頭演説中の安倍晋三元首相(67)が銃撃され死亡した事件で、山上徹也容疑者(41)=殺人容疑で送検=のものとみられるツイッターには、宗教団体への強い恨みの他に、母親(69)への思いもつづられていた。団体に入信し、多額の献金を繰り返した母親は、事件を解明する上で欠かせない存在とみられる。捜査関係者によると、山上容疑者は家族を崩壊に追い込んだ母親を恨みつつも、殺意を抱くなどしていた様子は見られないという。ツイッターからは断ちがたい親子間の情愛のようなものも読み取れる。
親族によると、母親は山上容疑者が小学生だった約30年前、宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」に入信した。総額約1億円を献金して自己破産しており、山上容疑者は「家族をめちゃくちゃにした団体を10代のころから恨んでいた」と捜査関係者に説明。安倍氏も国内で団体を広めたと考えて銃撃したという趣旨の供述をしている。
ツイッターのアカウントは、山上容疑者が岡山市から事件直前に松江市の男性(71)へ送ったとされる手紙に記されていた。匿名のアカウントで、投稿は2019年10月13日から始まっている。宗教団体への恨みが記される中、家族に関する投稿も目立つ。
「常に母の心は兄にあった」
2カ月後の12月にはこう投稿された。
親族によると、父親は山上容疑者が4歳の頃に自殺し、一つ違いの兄は幼いころに小児がんを患って右目を失明している。投稿では、こうした家庭環境について触れた上で、母親が大病を患う兄を気にかける様子を記し「オレは努力した。母の為に」と続けた。
「何故に母は兄のため、オレを生贄(いけにえ)にしようとするか」「オレは母を信じたかった」などとも投稿され、母親を慕う子の思いが吐露されていた。
一方で、厳しい言葉を並べることもあった。
21年4月の投稿では、ある連続殺傷事件の死刑囚の母親を取り上げた記事について「この感覚はウチの母親に似てるから分かる」と言及。「言葉では心配している、涙も見せる、だが現実にはどこまでも無関心」「こんな人間に愛情を期待しても惨めになるだけ」と見限るような記述もあった。
捜査関係者によると、山上容疑者は事件まで母親と長い間会っておらず、連絡も取り合っていなかった。取り調べの中でも家庭を崩壊させたとして恨みを抱いている節はあるが、これまで敵意が向くことは無かったとみられるという。
甲南大の園田寿名誉教授(刑法)は「家族全体が団体にズタズタにされてしまったと考える中で、母親も自分と同じ被害者なのだと山上容疑者は考えていたのでは」と心境を推察する。その上で母親を含めた家庭環境についての投稿を重ねていた点に触れ「文章を書くことで自身を客観的に見て、抱える心の苦しみを昇華しようとしたのではないか。周囲に相談できる人がおらず孤独だったからこそ、思いの丈を書きとどめたと考えられる」と語った。
団体によると、母親とは09年から17年ごろまでは連絡が取れなかった。だが、この半年ほどは月に1回のペースで、団体の行事に顔を出すようになっていた。
関係者によると、事件を受け、奈良地検が母親から事情を聴いている。【吉川雄飛、林みづき、北村秀徳】