「360度警護が必要」なぜ演説場所に…他政党は「選挙カー置きにくい」と見送った例も

「360度警護が必要になり、安全上問題がある」。安倍晋三・元首相(67)が奈良市の近鉄大和西大寺駅前で銃撃された事件後、現場が演説場所に選ばれたことに疑問の声が上がっている。自民党候補の陣営関係者は「人通りが多い」と説明するが、6月22日の参院選公示後、他の主要政党は「選挙カーが置きにくい」という理由で、同じ場所での応援演説を見送っていた。なぜ、あの場所で安倍氏が演説することになったのか。
党幹部らの演説場所は通常、陣営側が場所を決め、警察に報告。その後、警察が警察官の配置や交通規制などの警護・警備計画を決めている。
自民党候補の陣営は8日の演説について、元々は約3キロ西の近鉄学園前駅(奈良市)周辺を予定していた。だが、報道機関による終盤の情勢調査で他候補との接戦が報じられ、人気が高い安倍氏に応援演説に入ってもらうことが、前日になって急きょ決定。場所を近鉄大和西大寺駅の北口に変更した。
大型の商業施設があり、複数の陣営関係者は「有権者が多数集まる場所として、県内で最も適している」と指摘する。
演説場所となったのは、四方をガードレールで囲まれた約50平方メートルのエリア。360度を見渡せる場で、背後には交通規制が難しい幹線道路が通っていた。
道路を管理する市の許可を得てガードレールを動かし、選挙カーをエリア内に入れて、車上から演説する方法もあった。しかし、陣営の選挙カーは車上から演説できる構造になっておらず、路上での演説を選択。安倍氏は高さ数十センチの演説台の上に立つ形になった。選挙カーは、駐車スペースがないため北に約20メートル離れた場所に止められていた。
北向きには約100メートルにわたって両側に歩道があり、人の出入りが多い近鉄百貨店などもある。大規模な動員はかけなかったが、聴衆は約350人に上ったという。
この場所では、自民党の茂木幹事長も6月25日、安倍氏の時と同様に360度開けた状態のまま、路上から応援演説を行っている。聴衆は約150人で、トラブルはなかったという。
安倍氏は同28日にも同駅前で応援演説をしていたが、場所は駅を挟んだ南口だった。路上から行ったが、背後は選挙カーでカバーされていた。事件が起きた場所ほど人通りは多くないとされ、8日には利用されなかった。
奈良県警は、安倍氏の応援演説が決まった7日夕から警護・警備計画を急きょ作成。県警と陣営スタッフで現場を訪れ、安倍氏が立つ位置などを確認した。鬼塚友章・県警本部長は8日午前、警護・警備計画を承認した。
自民党の陣営関係者は「警察から安全上の問題があるとは指摘されなかった」と述べた。
車上で行う党も

他の主要政党の陣営は、自民党の陣営とは異なる判断をしていた。
公明党は、「(聴衆を集めやすい)選挙カーを近くに置けない」という理由で、南口を使ったという。
日本維新の会は、公示後、安倍氏の演説場所から北約150メートルの路上で街頭演説を複数回行った。安倍氏の演説場所について、「ガードレールに囲まれ襲撃されても逃げにくい上、緊急時に使う車も近くに置けない」と判断した。
立憲民主党は、周辺の道路が今年4月に改修され、演説者の背後に選挙カーを置きにくい構造になったため、公示後の利用を避けた、としている。
共産党は、公示前の6月11日に市田忠義・党副委員長が、事件当日の安倍氏と同じ場所で演説。市の許可を得てガードレールを一部動かし、エリア内に選挙カーを入れて車上で行った。車上では、党の警備スタッフが市田氏らを守っていたという。