「大学としても悩ましい。何とかできればいいが、もう試験は始まっている。このタイミングで決定をひっくり返せば、さらなる混乱を招いてしまう……」 苦しい胸の内を語るのは東京大学職員の一人。東大の1、2年生が通う教養学部が今、ジレンマに陥っている。 ことの発端は、教養学部が6月6日に発表した通知だった。この7月20日から8月2日まで実施する春学期末試験において、コロナ感染等が理由で試験を受けられなかった学生への代替措置、救済措置は取らないというものだ。 「公平性」強調する東大特有の事情 教養学部は2020年12月から、コロナ陽性者や濃厚接触者であることが原因で試験が受けられなかった学生に対し、特別の救済措置を講じてきた。オンライン試験や代替のレポートを提出すれば通常の試験と同等の評価が受けられる措置で、全科目が対象だった。 平時の救済措置もあるにはある。病気や事故等が原因で試験を受けられなかった学生向けの追試制度だ。ただ、評価は100点満点中75点までで、対象も外国語など一部の基礎科目にとどまる。救済を限定的にしているのは、通常試験を受ける学生より勉強時間が長くなることで追試受験者が有利になることを防止するためだとされる。 6月6日に教養学部が示した方針は、この春学期末試験からはコロナ陽性者や濃厚接触者であっても平時の追試制度に準じてもらうとするものだ。教養学部はその理由として「2022年度から原則対面授業を実施している」ことや「(コロナによる欠席だと)虚偽の申請をする学生がいた」ことなどを挙げる。教養学部が強調するのが「コロナ以外の病気や事故で欠席した学生との公平性を担保する必要がある」というものだ。 ここには東大特有の事情が絡んでいる。東大では1、2年の教養学部前期課程で必要単位を取得すると3年時からは法学部や経済学部、医学部といった学部へと「進学」をする。全学生が希望通りの学部に進学できるわけではなく、競争率の高い学部・学科については前期課程の成績、それも春学期末までの成績順に割り振られる。 つまり、目下実施されている春学期末試験の結果が進学選択に大きく影響する。将来にかかわる重要な試験であるため、学生間に不公平感が生じないよう配慮したというのが教養学部の言い分だ。 学生たちの思わぬ「反発」 ところが事態は大学にとって思わぬ方向へと展開する。1つは学生側からの反発だ。 6月13日、教養学部学生自治会は「感染や濃厚接触の責任を学生だけに負わせるのは非人道的だ」と、コロナ特別救済措置の存続を求める要望書を学部長宛てに提出。長谷川恭平自治会長は東洋経済の取材に「教養学部の方針は、コロナ感染者や濃厚接触者に登校自粛を求めながら試験を休んでも救済はしないということを意味する。そうであれば陽性者や濃厚接触者は無理をしてでも登校して受験しなければならなくなる。コロナに感染した学生に登校自粛を求めるのであれば相応の救済措置があってしかるべきだ」と言う。
「大学としても悩ましい。何とかできればいいが、もう試験は始まっている。このタイミングで決定をひっくり返せば、さらなる混乱を招いてしまう……」
苦しい胸の内を語るのは東京大学職員の一人。東大の1、2年生が通う教養学部が今、ジレンマに陥っている。
ことの発端は、教養学部が6月6日に発表した通知だった。この7月20日から8月2日まで実施する春学期末試験において、コロナ感染等が理由で試験を受けられなかった学生への代替措置、救済措置は取らないというものだ。
「公平性」強調する東大特有の事情
教養学部は2020年12月から、コロナ陽性者や濃厚接触者であることが原因で試験が受けられなかった学生に対し、特別の救済措置を講じてきた。オンライン試験や代替のレポートを提出すれば通常の試験と同等の評価が受けられる措置で、全科目が対象だった。
平時の救済措置もあるにはある。病気や事故等が原因で試験を受けられなかった学生向けの追試制度だ。ただ、評価は100点満点中75点までで、対象も外国語など一部の基礎科目にとどまる。救済を限定的にしているのは、通常試験を受ける学生より勉強時間が長くなることで追試受験者が有利になることを防止するためだとされる。
6月6日に教養学部が示した方針は、この春学期末試験からはコロナ陽性者や濃厚接触者であっても平時の追試制度に準じてもらうとするものだ。教養学部はその理由として「2022年度から原則対面授業を実施している」ことや「(コロナによる欠席だと)虚偽の申請をする学生がいた」ことなどを挙げる。教養学部が強調するのが「コロナ以外の病気や事故で欠席した学生との公平性を担保する必要がある」というものだ。
ここには東大特有の事情が絡んでいる。東大では1、2年の教養学部前期課程で必要単位を取得すると3年時からは法学部や経済学部、医学部といった学部へと「進学」をする。全学生が希望通りの学部に進学できるわけではなく、競争率の高い学部・学科については前期課程の成績、それも春学期末までの成績順に割り振られる。
つまり、目下実施されている春学期末試験の結果が進学選択に大きく影響する。将来にかかわる重要な試験であるため、学生間に不公平感が生じないよう配慮したというのが教養学部の言い分だ。
学生たちの思わぬ「反発」
ところが事態は大学にとって思わぬ方向へと展開する。1つは学生側からの反発だ。
6月13日、教養学部学生自治会は「感染や濃厚接触の責任を学生だけに負わせるのは非人道的だ」と、コロナ特別救済措置の存続を求める要望書を学部長宛てに提出。長谷川恭平自治会長は東洋経済の取材に「教養学部の方針は、コロナ感染者や濃厚接触者に登校自粛を求めながら試験を休んでも救済はしないということを意味する。そうであれば陽性者や濃厚接触者は無理をしてでも登校して受験しなければならなくなる。コロナに感染した学生に登校自粛を求めるのであれば相応の救済措置があってしかるべきだ」と言う。