生活の困窮などから、繁華街の路上などで売春せざるを得ない女性を福祉支援につなげる専門相談員を警視庁が全国で初めて配置した。摘発されても再び街頭に戻るケースは少なくなく新型コロナウイルス禍も拍車をかけているとされている。警視庁は悪循環から抜け出してもらうために摘発だけではなく、福祉につなげる取り組みに力を入れている。
歓楽街に立つ女性
日本最大の歓楽街、新宿・歌舞伎町にほど近い公園の周辺路地には、路上に立ち男性が通ると声をかけ売春を持ち掛けたり、客を待っていたりする「街娼」の女性が数多く見られる。
6月末も熱帯夜の中、客を待つ女性の姿があった。「お金に困っているわけではない。ホストにも行かない」。大阪府内から来たという20代女性は、こう語った。この女性は2万円で売春を行っているという。
「怖いから」と客に連絡先を教えることはないが常連の客もいるという。「客を選べないから風俗では働きたくない」と明かす。稼いだ金はネットカフェの宿泊費と、複雑な家庭環境を明かした上で「お母さんに送る」と語った。
支援を本格化
この地区では令和元年に延べ53人の女性が摘発された。動機はさまざまだが、経済的な困窮を抱えて街頭に立たざるを得ない女性もいる。特に新型コロナ禍以降は、増加傾向にあるという。警視庁保安課では2年からこうした女性の更生支援を行ってきた。
その一環として、今年4月、違法な売春を行い摘発されるなどした女性を行政の支援につなぐため、積極的に相談に乗ったり福祉事務所などに同行したりする専門の相談員を全国で初めて配置した。
初代相談員に抜擢されたのは、保安課で14年間にわたり売春捜査に携わり、3月に定年退職して再任用された非常勤の女性相談員(60)だ。主な活動内容は摘発された女性たちと行政の支援との橋渡し役になることだ。
相談員は「本音を聞くことは難しいが、警察官という立場ではなく、身構えることのないように心がけている」と話す。支援を拒絶する女性もいるが、「支援を受けられるということを知ってほしい」と話す。
立ち直りのきっかけに
すでにこれまで7人を福祉につなげている。「生活困窮がゆえに性的搾取を受けている女性は潜在している。本当は身体を傷つけたくないのに、そうせざるを得ない背景をつかむことが重要だ」と話す。
摘発されて間もないころは反省の色をにじませる女性たちも、時間がたつと反省の色が薄くなっているケースもある。売春は再犯率も高く、再び路上に立つ女性は少なくない。相談員は「生きていくためには(売春は)仕方ないとする、考え方を違う方向に持っていきたい」と話す。
新しい取り組みだけに試行錯誤は続く。それでも助けを求める女性の心の壁を取り除きながら、一緒に立ち直りのきっかけを探す。「行政機関と連携を強化していくことが大切。女性たちの心のどこかに引っ掛かる存在になりたい」。相談員は力を込めた。(塔野岡剛)