腎臓ひとつ1万5000ドル(約200万円)。中央アジア・キルギスで日本人患者が受けた生体腎移植で、臓器売買が行われていた疑いが浮上した。仲介したのは日本のNPO法人。親族間を装うためドナー(臓器提供者)のパスポートも偽造されていた。患者は一時重篤となり、「手術を受けなければよかった」と悔やんでいる。(藤原聖大)
患者「手術しなければよかった」
「(3人分の)ドナー費用は4万5000ドル。徐々に問題を解決しましょう」(NPOの通訳)
「そうですね。解決していきましょう」(NPO実質代表の男性)
6月上旬、NPO法人「難病患者支援の会」(東京)とコーディネーターのトルコ人男性(58)がオンラインで行った打ち合わせ。読売新聞が入手した録画記録では、前年にキルギスで手術を受けられなかった患者3人分の「ドナー費用」がNPOからトルコ人に支払い済みであることが確認されていた。
NPOの仲介で日本人の男女4人がキルギスに渡航したのは昨年11~12月。このうち唯一、実際に腎移植手術を受けたのが関西在住の女性(58)だった。
女性によると、腎疾患が悪化して人工透析を始めた2020年春頃、少しでも早く移植を受けたいとネットで調べ、NPOのホームページを見つけた。
連絡を取ると、実質代表の男性(62)は中央アジアのウズベキスタンを渡航先に指定してきた。「今回は生体移植だから、新しい腎臓の寿命もいいと思うよ」と勧められたという。
女性はNPOに約1850万円を支払い、昨年6月、ウズベキスタンの首都タシケントに入った。医師を名乗るトルコ人のコーディネーターが関与していることは、NPOのスタッフから事前に聞かされた。
録音記録やNPO関係者の証言によると、NPOは約8万ドル(約1070万円)を支払うことでトルコ人と合意。このうち約1万5000ドルが「ドナー費用」で、手術前にトルコ人に支払われていた。
女性は「40日で日本に帰れる」と言われたが、手術日はなかなか決まらなかった。同10月頃にやっと、NPOから「ドナーが見つかった」と伝えられた。
ドナーは中年の小柄なウクライナ人女性で、検査会場などで数回会った。その際、「おはよう」と日本語であいさつされただけでなく、「幸せなら手をたたこう」という歌を日本語で口ずさんでいた。
なぜ日本語を使えるのか不思議に思い、NPOのスタッフに尋ねると、親族を装うために日本語を教えていると聞かされた。後に、ドナー名義の日本旅券が偽造されていたこともNPO関係者から聞いた。
在キルギス日本大使館によると、現地では親族間以外の生体移植は法律で禁止されている。NPO関係者は旅券の偽造などについて「親族間の移植を装うためだった」と証言した。
女性はタシケントの病院に入院して手術を待ったが、同11月末に突然、NPOから「キルギスに行く」と伝えられ、隣国キルギスの首都ビシケクに移った。案内されたのは民間の病院で、慌ただしく医療機材が運び込まれていた。
執刀医は、それまで説明されていた「インドの移植専門医」から、エジプト人医師に替わった。女性は不安に思ったが、「ドナーもおり、移植を受けるチャンスは今しかない」と自分自身に言い聞かせた。12月18日、手術を受けた。
目が覚めたのは、約1週間後。ビシケク市内のホテルの一室だった。背中に、ナイフで刺されたかのような激痛があった。
病院からホテルに移った理由をSNSを通じてトルコ人に聞くと、「別の患者に問題が起きたため」と返信があった。NPOとは別ルートで病院を訪れ、腎移植手術を受けたイスラエル人が死亡していた。
女性は年明けに帰国後、そのまま病院に入院。移植した腎臓は機能しておらず、手術で摘出した。医師は「帰国があと1時間遅れていたら、死んでいたかもしれない」と語ったという。
女性はそれから半年余り入院し、現在は自宅で療養している。「NPOを信用して手術を受けたのに、こんなことになって、許せない」と話した。