北九州市小倉北区の旦過(たんが)市場で10日夜に発生した大規模な火災で、演劇人であり俳優の栗原小巻さんと奈良岡朋子さんが13日、全焼した老舗映画館「小倉昭和館」を激励するメッセージを公表した。今年で開館83周年を迎える同館の歩みをたたえながら、館と旦過市場への支援を広く訴えている。
小倉昭和館は、3代目館主の樋口智巳さん(62)が就任した10年ほど前から地元の演劇鑑賞団体「北九州市民劇場」と協力。公演のために北九州を訪れる劇団所属の人気俳優が出演する映画を上映し、トークショーなどに俳優を招いて交流を深めてきた。
栗原さんは戦後70年にあたる2015年8月、栗原さん主演の「ひめゆりの塔」(1982年)などを上映した際に来館。国会で審議が進んでいた集団的自衛権を容認する安全保障関連法案を念頭に「政府にはぜひ平和憲法を守っていただきたい」などと訴えた。21年8月の「サンダカン八番娼館(しょうかん) 望郷」(74年)上映時にも来館し、舞台あいさつをした。
奈良岡さんは17年7月、同館が戦後72年特集として上映した奈良岡さん出演の映画「ホタル」(01年)であいさつに立ち、15歳で体験した東京大空襲の惨状や、ライフワークである井伏鱒二原作「黒い雨」の朗読芝居などについて語った。2人は19年に同館が発行した80周年記念誌にも祝福のメッセージを寄せている。
市民劇場事務局長の民谷陽子さんによると、小倉昭和館の被災を聞いた演劇人から「何かできることはないか」との問い合わせが相次いでいるという。民谷さんは「映画文化を守り続けてきた小倉昭和館は、数多くの劇団からも高く評価されている。メッセージが再建への一助になってほしい」と話している。【伊藤和人】
■栗原小巻さんのメッセージ
北九州の生活の拠(よ)り所、旦過市場の火災のニュースに動揺しました。「皆様、どうぞご無事で」
そして、小倉昭和館は、北九州の精神の拠り所です。客席、お一人お一人の思い、長い歴史。一冊のシナリオから叡知(えいち)を結集して創造された、一本の、そして、それぞれの作品。監督はもちろん、わたくし達(たち)俳優の思いもあります。
樋口智巳館長の思いは、さらに深く、お気持ち察するに余りあります。映画への、愛情、情熱、地域文化の発展、誇り、創業83年―小倉昭和館。
今、樋口さんに、北九州の皆さんにかけられるのは、お見舞いの言葉しかありません。
それでも、いつかお伝えしたい。
「われらは同胞、故郷は、立ち上がる」
■奈良岡朋子さんのメッセージ
世界中の映画を愛する人たちの伴走者「昭和館」が傷ついています。
小倉の文化財であるとともに、日本の映画人にとって故郷の場所です。この大切な小さな映画館を一緒に守っていきましょう。皆さまのお力をお貸しください。