脱炭素へ水素輸送網を構築、受け入れ港を複数整備へ…現在は神戸港のみ

政府は、水素を運搬する大型船舶を受け入れられる港湾を複数整備する方向で調整に入った。脱炭素社会の実現に向け、水素は発電や運輸などの様々な分野で需要拡大が見込まれており、来年改定する「海洋基本計画」に水素の安定的な確保に向けた海上輸送網構築を明記する方針だ。
政府は、2030年度までに温室効果ガスの排出量を13年度比で46%削減し、50年までに実質ゼロとする「カーボンニュートラル」の実現を掲げている。燃焼時に温室効果ガスを出さない水素を次世代燃料として期待しており、水素の消費量を現状の年200万トンから、50年には年2000万トンまで拡大することを目指している。
課題はコストを抑えることだ。資源エネルギー庁の試算では、水素の調達費用は1立方メートルあたり170円程度で、政府は30年に8割減の30円に引き下げる目標を掲げる。大規模で安定的に水素を調達するサプライチェーン(供給網)の構築が必要となる。
政府がモデルとするのが、川崎重工業や岩谷産業などでつくる水素推進組織「HySTRA(ハイストラ)」の実証事業だ。ハイストラは今年2月、オーストラリアで生産した水素を「液化水素運搬船」(タンク容量1250立方メートル)で神戸港に運んだ。大規模な液化水素を海上輸送するのは世界でも初めての試みだった。
神戸港では、輸送した液化水素を「ローディングアームシステム」と呼ばれる荷役機器で抜き取り、陸上の液化水素貯蔵タンク(2500立方メートル、直径19メートル)に

充填
(じゅうてん)した。国土交通省によると、こうした事業を実施できる港は現在、神戸港しかないという。
政府は現在、全国の港湾を管理する自治体に水素の需要を推計するよう求めている。自治体の報告や立地条件などを考慮した上で、複数の港を指定する方向だ。
政府の「総合海洋政策本部」参与会議(座長・田中明彦国際協力機構理事長)は7月、岸田首相に水素を確保するための海上輸送網を構築するよう提言した。政府は来年5月頃の次期海洋基本計画の策定に向け、検討を加速させる考えだ。
◆海洋基本計画=2007年に制定された海洋基本法に基づき、海洋政策の基本方針や講ずべき施策などを総合的に示した国の計画。政府の総合海洋政策本部(本部長・岸田首相)が策定する。「おおむね5年」ごとに見直すことになっており、現計画は18年5月に閣議決定された。