中東諸国も安倍元首相国葬にソッポ…軍事協力強化に踏み切ったイスラエルからの要人はゼロ

(宮田律・現代イスラム研究センター理事長) 岸田首相は、27日に行われる安倍晋三元首相の国葬に弔問外交で各国との関係を強化すると述べてきたが、これについてはジュネーブ軍縮会議代表部大使、日朝国交正常化交渉政府代表などを歴任した元外交官の美根慶樹氏は朝日新聞(9月19日)で具体的な外交成果はほとんど期待できないと述べている。外交的成果を上げるには緻密な準備が必要であるし、葬儀の席上では各国代表同士の具体的な意見交換も難しいからだそうだ。 美根氏の言葉を筆者の専門である中東諸国に当てはめれば、緻密な準備もなく、具体的な意見交換の前提になるほどの要人が来ないから外交的成果を期待するのは難しいということになる。 ■親イスラエルに舵を切ったことで邦人犠牲者が2人も出た イスラエルはギラッド・コーヘン大使の参加だけでイスラエル本国から要人はまったく来ない。昭和天皇の大喪の礼にはハイム・ヘルツォーグ大統領が参列し、エリザベス女王の国葬にはハイム氏の息子のイツハク・ヘルツォーグ大統領が出席した。イスラエル政治では実務は首相が担当し、大統領は儀礼的存在だが、外国元首などの葬儀には大統領が出席するのが外交上の礼儀となっている。閣僚クラスの参列もないことは安倍氏の国葬が重視されていないということだろう。 安倍氏は首相在任時代、イスラエルとの関係強化に熱心であった。イスラエルとの安全保障協力を推進し、日本の国家安全保障局とイスラエルの国家安全保障会議との会合を行うことで合意したり、日本で生産された部品がイスラエルも使用するF35戦闘機に使用されたりすることになった。自衛隊幹部のイスラエルへの派遣、サイバー・セキュリティや無人機に関する協力も確認されている。 こうしたイスラエルとの防衛協力は安倍政権が初めてで、安倍政権のイスラエルに傾斜する姿勢はアラブ世界の日本への良好な感情を損なう危険性を孕んでいた。2015年1月、シリアで日本人2人が「イスラム国(IS)」に拉致された時、安倍元首相はイスラエルのネタニヤフ首相との間で、イスラエル国旗の前で両国の連携強化を確認した。ISはそれに反発するように日本人の人質たち2人の首を斬った。安倍氏が親イスラエルとも言える外交に舵を切ったのは彼が重視した対米外交への配慮もあったのだろう。米国はよく知られているようにイスラエル最大の後ろ盾だ。 ■昭和天皇の大喪の礼やエリザベス女王の国葬と比較すると…
(宮田律・現代イスラム研究センター理事長)
岸田首相は、27日に行われる安倍晋三元首相の国葬に弔問外交で各国との関係を強化すると述べてきたが、これについてはジュネーブ軍縮会議代表部大使、日朝国交正常化交渉政府代表などを歴任した元外交官の美根慶樹氏は朝日新聞(9月19日)で具体的な外交成果はほとんど期待できないと述べている。外交的成果を上げるには緻密な準備が必要であるし、葬儀の席上では各国代表同士の具体的な意見交換も難しいからだそうだ。
美根氏の言葉を筆者の専門である中東諸国に当てはめれば、緻密な準備もなく、具体的な意見交換の前提になるほどの要人が来ないから外交的成果を期待するのは難しいということになる。
■親イスラエルに舵を切ったことで邦人犠牲者が2人も出た
イスラエルはギラッド・コーヘン大使の参加だけでイスラエル本国から要人はまったく来ない。昭和天皇の大喪の礼にはハイム・ヘルツォーグ大統領が参列し、エリザベス女王の国葬にはハイム氏の息子のイツハク・ヘルツォーグ大統領が出席した。イスラエル政治では実務は首相が担当し、大統領は儀礼的存在だが、外国元首などの葬儀には大統領が出席するのが外交上の礼儀となっている。閣僚クラスの参列もないことは安倍氏の国葬が重視されていないということだろう。
安倍氏は首相在任時代、イスラエルとの関係強化に熱心であった。イスラエルとの安全保障協力を推進し、日本の国家安全保障局とイスラエルの国家安全保障会議との会合を行うことで合意したり、日本で生産された部品がイスラエルも使用するF35戦闘機に使用されたりすることになった。自衛隊幹部のイスラエルへの派遣、サイバー・セキュリティや無人機に関する協力も確認されている。
こうしたイスラエルとの防衛協力は安倍政権が初めてで、安倍政権のイスラエルに傾斜する姿勢はアラブ世界の日本への良好な感情を損なう危険性を孕んでいた。2015年1月、シリアで日本人2人が「イスラム国(IS)」に拉致された時、安倍元首相はイスラエルのネタニヤフ首相との間で、イスラエル国旗の前で両国の連携強化を確認した。ISはそれに反発するように日本人の人質たち2人の首を斬った。安倍氏が親イスラエルとも言える外交に舵を切ったのは彼が重視した対米外交への配慮もあったのだろう。米国はよく知られているようにイスラエル最大の後ろ盾だ。
■昭和天皇の大喪の礼やエリザベス女王の国葬と比較すると…