身長180センチと体格のよい男が、老女の髪を掴み、引きずり回す。木の枝をへし折るように両腕を骨折させてなお、顔面を力任せに殴打し続けた。
残虐な暴行は、約20分にも及んだ。介護職員の菊池隆容疑者(50)が我に返った時、要介護4の山野辺陽子さん(92)は、ピクリとも動かなくなっていた。
腕のほか胸椎も折れ、熱傷の痕もあった
現場は東京都北区にある特別養護老人ホーム「浮間こひつじ園」の1階東側の個室。9月15日午後11時頃のことだ。
「被害者の死因は頸髄と脳幹の損傷とみられ、腕のほか、胸椎も折れていた。さらに、顔面から背中にかけて、ポットの熱湯を浴びせられてできた熱傷の痕があった」(捜査関係者)
この日、午後10時から翌日朝7時までの夜勤シフトに入っていた菊池は、犯行後に施設から逃走。
「昔、住んだり行ったことのある場所を通って、北海道に行って死のう」
そう考えたという菊池は16日未明、コンビニのATMなどで現金90万円を下ろすと、電車を小刻みに乗り継ぎ、本州を北上していく。事件から1週間後の22日、警視庁は公開手配に踏み切った。
近隣住民「夫婦揃ってギャンブル好きな菊池さん」
菊池は1972年2月、神奈川県川崎市で生を享けた。その後、一家が暮らしたのは、横浜市内のアパート。近隣住民が振り返る。
「夫婦揃ってギャンブル好きな菊池さんという家族が住んでいました。子供は男女2人。隆というのはその男の子の方だと思います」
中学校を卒業後、菊池は“Y校”の愛称で知られる横浜商業に入学。高3時は進学クラスに在籍した。
「高校の時は、細くて男前でした。あだ名は『菊ちゃん』。部活は特にしていなかったです。中性的な雰囲気があって、男同士でつるむより、女子と仲良く話していました」(同級生)
高校卒業後は進学したという菊池。関東を中心に各地を転々とし、介護の仕事を始めたのは約5年前のこと。2年前、全国展開する介護事業の会社に入社するも長続きせず、今年6月に流れ着いたのが「浮間こひつじ園」だった。
採用面接では「介護の仕事にやりがいを感じている」と話していたというが、同僚はこう打ち明ける。
「菊池は夜勤専門の非常勤スタッフで、日給は約1万4000円。同じ1階の職員から『気が短いところがある』と聞きました」
7つ年の離れた菊池の兄・Aが明かす
殺人容疑の逃亡犯となった菊池について、警視庁は親族からも話を聴き、手がかりを得ようとした。その1人が、7つ年の離れた菊池の兄、Aさんだった。
Aさんが困惑しながら吐露する。
「私は、3歳の時に両親が離婚して、地方の親族に預けられて育ちました。離れて暮らしていた父が再婚して生まれたのが隆で、彼とは異母兄弟なんです。一緒に生活をしたこともなく、小さい時に数回程度、顔を合わせただけ。私の家族は、彼と面識すらありません」
弟とは30年以上、音信不通だったという。
「身内と縁を切りたかったのか、戸籍を抜いてしまって連絡が取れず、16、7年前に父が死んだ時も葬儀に来ませんでした」(同前)
呼び出されてバカにされたと供述
犯行2日後の17日。北海道に到達した菊池は、札幌市内に潜伏していたが、25日午後、市民の通報によって逮捕された。
「事件当夜、菊池は山野辺さんから『痛いところがある』と呼び出され、異常はないと告げたところ、バカにされたなどと供述。2人の相性はよくなかったようです」(社会部記者)
山野辺さんは7月中旬に入所したばかり。それまで2人で暮らしていた長男が静かに怒りを滲ませる。
「猫好きで、いつもニコニコしている社交的な母でした。約1年前から車椅子になり、やっと入れた特養だったんですが……。コロナがあって入所後に会えたのは、9月12日の1回だけでした。犯人は許せません」
逮捕時、菊池が所持していたのは、約50万円に減った現金と刃渡り約10センチのナイフ。右首には、自殺を試みたためらい傷があり、白いシャツの襟もとは血痕で黒ずんでいた。
逃避行の末、死にきれずに逮捕された菊池。現在配信中の 「週刊文春電子版」 では、彼が殺害逃亡犯に堕ちるまでの50年の人生を詳報する。
(「週刊文春」編集部/週刊文春)