「ひどい扱い許せない」 妊娠で強制退職の元実習生、提訴理由語る

福岡県内の高齢者福祉施設で技能実習生として働いていたフィリピン人女性(26)が妊娠を理由に帰国を迫られ、不当に退職させられたとして、実習先の運営法人や大分市の監理団体などに計約620万円の損害賠償などを求めて福岡地裁行橋支部に提訴したことを受け、熊本市の支援団体が15日に記者会見し、オンラインで参加した女性は「本当にみじめで困難の連続だった。こんなひどい扱いを許すことはできない」と力を込めた。
提訴は12日付。訴状によると、女性は2019年9月に介護職の実習生として来日。妊娠が判明し、21年5月に「産休を取ってフィリピンに帰国して出産後、日本に戻って実習を継続したい」と伝えた。しかし監理団体の理事らは「契約違反で罰金を払い、フィリピンに戻らなければならない」などと説明し、帰国同意署に署名を迫ったとしている。女性は同8月にやむなく退職した。
女性は会見で「妊娠や出産が私たちの権利として認識されず、(実習生にも適用される日本の)法律が守られていない」と主張。「私の失われた権利や損害を回復したい」と訴えた。原告代理人の石黒大貴弁護士は「妊娠した実習生を取り巻く過酷な環境を改善するため一石を投じたい」と話した。
提訴について監理団体は「ノーコメント」、運営法人の理事長は「訴状を見ないと分からないが、彼女を大事に思い、日本人と同じように接していた」と話した。【栗栖由喜】
「中絶するよう薦めていると感じた」
女性が記者会見で公表した「なぜ私が提訴したのか」とのメッセージの要旨は次の通り。
日本政府は妊娠中の女性を解雇することは違法と定めていますが、この規定は実際には守られていません。雇用契約書に明確に書かれているにもかかわらず、私たちはまだ(妊娠出産を選択する)権利を奪われています。
なぜこのようなことが起こるのでしょうか。妊娠や出産は私たちの権利として認識されておらず、法律が守られていないからです。妊娠した技能実習生を面倒くさい存在だと思っているのです。
残念ながら私は、帰国を迫られ、辞めざるを得なかった多くの無力な実習生の一人でした。本当にみじめで、困難の連続でした。
想像してみてください。お腹にもう一つの命を宿しているときに私が経験した酷い出来事を。私はこんな扱いをされるべきではないし、私の赤ちゃんも同じです。こんなひどい扱いを許すことはできません。
私は、監理団体に電話で相談しました。すると監理団体から、私の妊娠のせいで他のフィリピン人実習生の評価はすごく落ちると言われました。そして私に「アボーション」(中絶)を知っているかと尋ねました。私に中絶するよう薦めていると感じました。
実際、私はたくさんの人に助けを求めようとしました。送り出し機関、監理団体、実習実施者の三者に対して、ひとりで声をあげ続けるのは本当に困難でした。私は何度も一人ぼっちで自分の身を守らなければなりませんでした。
私は彼らに、「赤ちゃんを産みたいです。契約書にも書かれている通り、産休を取って、フィリピンに帰って出産し、日本に戻って実習を終わらせたい」と言い続けました。それは契約書にも明記してありますし、私の基本的な権利だからです。しかし、実際は誰も私の話を聞いてくれませんでした。彼らによると、私の要求には応じられず、実習をやめて帰国する選択肢しかないと言われました。本当に絶望的でした。
私は何度も話をし、仕事を続けさせてくれるよう要求しました。しかし、話し合いの場で言われたのは、私の実習はすでに終了したので仕事はもうない、住んでいる寮からもできるだけ早く出なければならない、ということでした。
今回、私の身に起きたことを公表せず、誰もこの問題を提起しなければ、企業や監理団体等は不正を行い続け、多くの技能実習生が私と同じような酷い扱いを受け続けることになります。
私は正しい要求をしただけなのに、それが認められませんでした。明らかに不公平な外国人技能実習制度を正し、私の失われた権利や損害を回復するため、このたび裁判を提訴することにしました。