内閣支持率の下落が止まらない。毎日新聞と社会調査研究センターが9月17、18日に実施した調査結果によると、岸田文雄内閣の支持率は29%と3割を切る結果に。さらに、10月に行われた時事通信の調査でも内閣支持27%、不支持43%と、決して「国民から支持されている」とは言い難い状況に陥っている。
Haru Works
7月に行われた参議院選挙では自民党が勝利したにもかかわらず、なぜここまで支持率を落としたのだろうか。政治経済評論家の池戸万作氏(@mansaku_ikedo)に話を聞いた。
◆“知らなかった”若い世代が知ってしまった
支持率がこれほど急落した背景として、「やはり、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)とのつながりが明らかになったことが大きいです」と池戸氏は言う。
「メディアでは二世の方のインタビューや霊感商法の手口など、旧統一教会関連のニュースが連日報じられていまたね。そういった団体と密なつながりがあったことが白日の下に晒され、自民党に対する不信感は一気に高まりました。
もともと、1990年代ごろに旧統一教会は“カルト教団”として認知されており、上の世代の人からすれば旧統一教会の問題性は有名でした。ただ、今回の安倍晋三氏が銃撃を受けて死亡した事件を受け、“知らなかった”若い世代にも広がり、支持率に大きく反映されたはず」
◆“聞く力”が悪い方向に作用
Fumio Kishida, Prime Minister of Japan Gints Ivuskans Dreamstime.com
もちろん原因は、旧統一教会の問題だけではない。
「安倍晋三氏の国葬を強行したことも支持率急落に関係しています。おそらく岸田首相自身も『国葬に賛成したことは失敗だった』と後悔していると思います。麻生太郎氏や二階俊博氏など国葬賛成派の“長老”の声を聞いてしまい、持ち前の“聞く力”が悪いほうに作用してしまいましたね」
2022年に入って物価上昇が加速しているものの、一向に有効な対策を講じないことも大きいはず。岸田内閣の原材料費などコストの上昇が原因で発生するインフレ、“コストプッシュインフレ”の対策については厳しい評価を下さざるを得ないようだ。
「補助金の拡充を実施するなど、ガソリン価格の上昇に対して一応対応しましたが、主にやったことと言えばこれくらいです。減税や一律給付金といった私たちの生活を支えてくれる政策は一切講じず、評価としては0点に近いです」
◆解散総選挙が考えにくい理由
支持率が急落しているため、すでに解散総選挙もささやかれている。池戸氏は「今の自民党では選挙をしても勝てない可能性が高いため、このタイミングでは考えにくいです」と口にする。
「2021年の衆議院選挙は、自民党の勝利に終わりました。けれども、自民党と立憲民主党が戦った選挙区の票数を見ると、勝ってはいるもののその票数は僅差、というケースが多かったです。今解散すると僅差で勝利した選挙区の勝敗が逆転しかねません。そうなると、小選挙区制の仕組み上、自民党の議席数は数十議席規模で大幅に減ることになります。
仮に解散総選挙をやる場合、旧統一教会との関係性が切れていない自民党議員は非公認にして、小泉純一郎元首相の郵政解散総選挙の時のように、選挙区には新たな自民党公認候補者を“刺客”として送るぐらいの大胆な選挙戦略を取らなければ、岸田自民党の勝利は難しいですが、野党だけが敵というわけではなくなるため、わざわざ面倒な選択はしないと思いますね」
◆対抗馬の立憲・維新は…?
池戸万作氏
自民党の支持が揺らいでおり、野党としては千載一遇のチャンスとも言えそうだ。池戸氏は野党第1党「立憲民主党」をどう評価しているのか。
「岡田克也氏や長妻昭氏といった民主党政権時代の大臣クラスが執行部に新たに起用されました。泉健太代表も48歳と若いため、重鎮を据えることでバランスをとる狙いがあるのかもしれません。しかし、『民主党政権の時と同じメンバーか……』というネガティブな印象を持たれているように感じます」
経験値が高いメンバーが表舞台に出るのは悪いことでもないように感じるが、と雲行きは怪しいようだ。
「例えば、立憲は6月に日本共産党やれいわ新選組、社民党とともに物価上昇に備えるため、消費税を減税する法案を共同提出しました。ただ、政調会長の長妻氏は消費税を社会保障の財源として肯定する均衡財政的な考えを持っているように見受けられます。今後は党として政策がまとまらず、支持を集めることはできないかもしれませんね」
◆どうすれば支持率が回復するのか
また、衆議院選挙、参議院選挙でいずれも存在感を発揮した「日本維新の会」の動きはどうなのか。
「維新は9月下旬に立憲民主党と共闘することを決めましたが、この判断は意外でした。おそらく8月に代表が馬場伸幸氏に交代したにもかかわらず、あまり盛り上がらなかったこと。加えて、参議院選挙において大阪では地盤の固さを見せたものの、東京、愛知、京都で議席を取れなかったことを反省しての判断かもしれません。臨時国会で両党がどのような化学反応を起こすか注目したいです」
立憲と維新の2党の動き次第では、自民党の支持率低下はますます加速するかもしれない。岸田内閣が支持率を回復するためにはどんなことをやるべきか。
「旧統一教会に対して『関係を切ります』と強い姿勢を見せなければいけません。仮に、岸田首相が『旧統一教会と関わりがある人間は公認しない』『つながりが断てない議員は自民党を追い出す』といった確固たる意思を見せられれば、解散総選挙をやっても良いのではないかと。とはいえ、強気なリーダーシップを発揮するキャラでもないので現実的ではないかと思います」
◆支持率回復には消費税減税が必須?
また、10月に入ってますます物価が上昇しており、コストプッシュインフレ対策に力を入れる必要性を説く。
「減税は必須であり、とりわけ消費税減税・廃止は早急に実施すべきです。消費税は逆進性の高い税金です。例えば、1万円のものを買った際に消費税として1000円取られますが、年収が低い人のほうがその負担は大きいですよね。物価上昇に国民が悲鳴を上げている状況ですので、即刻調整する必要があります。
2020年に一度だけ実施した一律給付金もマストです。給付金に関しては非課税世帯を対象に配布されてはいますが、コロナ禍かつコストプッシュインフレの状況下ではいつ経済的に困窮するかわかりません。このあたりは国民民主党代表の玉木雄一郎氏が積極的に経済政策について発信しており、悪くない内容です。岸田氏も玉木氏の発信に対して“聞く力”を発揮すれば、支持率低下を脱せられるのではないでしょうか」
◆補正予算に注目してみよう
岸田内閣の動向として、今後どのような点に注目すれば良いのかを最後に尋ねてみた。
「10月3日から臨時国会が開催されており、補正予算が決められます。先述した通り、消費税減税や一律給付金といった経済政策を実施するに足る予算が組まれるかが注目です。玉木氏が掲げた経済対策は約23兆円の予算が必要になりますが、それくらいの規模の予算が組まれなければ、厳しい生活から脱することは難しいです。
ここは国民民主党に限らず、野党が強く声をあげるポイントですので、岸田首相がどのように対応するのかを注視しなければいけません」
強い向かい風が吹き荒れるなか、景気回復に対しての本気度が問われる岸田内閣。補正予算額は、11月に提出される見通し。右肩下がりで支持率が下落する流れにピリオドを打つ一手になるのか、期待して待ちたいところだ。
<取材・文/望月悠木>
【池戸万作】 政治経済評論家。1983年東京都生まれ。同志社大学法学部政治学科卒業、中央大学経済学研究科博士前期課程修了。公的機関での事務職や民間企業での経理職の傍ら、2010年より、日本経済復活の会に参加し、故・宍戸駿太郎(元筑波大学副学長、元国際大学学長)氏より、経済学の教えを受ける。現在は国会議員の経済政策ブレーンなどを務める。Twitter:@mansaku_ikedo
フリーライター。主に政治経済、社会問題に関する記事の執筆を手がける。今、知るべき情報を多くの人に届けるため、日々活動を続けている Twitter:@mochizukiyuuki