神戸市で平成9年に起きた連続児童殺傷事件で、当時14歳で逮捕された加害男性の全事件記録が神戸家裁で廃棄されていた。その凄惨(せいさん)な犯行態様が社会を震撼(しんかん)させ、報道機関への声明文の送付などにより「劇場型犯罪」とも呼ばれた、まさに事件史上の事件。その記録が失われ、検証が不可能となったにもかかわらず、裁判所側は調査に否定的な考えだ。「ひどすぎて言葉がない」。裁判所のずさんな文書管理と事後対応に、事件関係者からは驚きと憤りの声が上がった。
「事件は特殊なものだった。同じようなことが起きた場合の参考に、当時の資料は残しておくべきだったと思う」
記録廃棄が明らかになった20日、事件で犠牲となった土師(はせ)淳君=当時(11)=の父、守さんは産経新聞の取材にこう話した。
神戸家裁の対応については「責任の追及という意味ではない」とことわった上で、「今後同じことを繰り返さないためにも、誰がなぜ、どういう経緯で捨てたのか、きちんと検証して説明しなければいけないと思う」と調査の必要性を指摘した。
事件発生当初から遺族側の代理人を務めた井関勇司弁護士は「ひどい話で言葉がない。永久保存すると思っていたのに、まさか廃棄するとは」と憤りをあらわにした。
井関氏は「神戸家裁に閲覧申請をしても『少年審判は非公開』という原則を理由に閲覧できなかった。将来的に開示されたら全ての資料を見たいと思っていたのに」と悔しがる。
加害男性の精神鑑定書などは、遺族でさえ目にしていないといい、「被害者や遺族にとって事件は今も終わっておらず、許せない。家裁の職員は廃棄することに躊躇(ちゅうちょ)しなかったのか。家裁には経緯を検証してもらいたい」と語気を強めた。
加害男性の付添人の一人だった工藤涼二弁護士も「あれだけ社会に大きな影響を与えた事件の記録を残さないで、何を残すのか」と苦言を呈す。
工藤氏によれば、事件記録は膨大で、積み上げれば2メートルを超えるほどの資料が家裁のロッカーにあったはずという。「是非は別にして少年法改正につながった事件であり、被害者保護の面でも制度改革の端緒となった。鑑定書も含めて処分されたのは残念」とした。
家裁や最高裁が廃棄の経緯調査に否定的な姿勢を示していることに、被害者学が専門で元常磐大学長の諸沢英道氏は「裁判官でもない現場の職員が、記録の廃棄を決めるケースがあると聞いたことがある。もしも組織の責任問題に発展することを恐れて調査しないのであれば、大きな問題だ」と疑問視した。