北海道・知床半島沖で観光船「KAZU Ⅰ(カズ・ワン)」が沈没した事故が23日、発生から半年の節目を迎える。乗客乗員26人のうち20人の死亡が確認されたが、6人は行方不明のままだ。多くの人命が奪われた事故はなぜ起きたのか。刑事責任を追及することは可能か。第1管区海上保安本部(小樽)の捜査では、悪天候下の出航の判断と過失責任の所在が焦点となっている。(大竹直樹)
カズ・ワンは4月23日、半島西側の「カシュニの滝」沖で沈没。5月23日に事故現場の海底からつり上げられた。翌24日、曳航(えいこう)中に海底に再び落下したものの、海上保安庁関係者によると、落下による捜査への支障はなかったという。
これまでの捜査で、船体前方の窓ガラス1枚が破損していたことが確認され、甲板下の船倉や機関室などを仕切る3枚の隔壁のうち、船首側の隔壁に穴があいていたことが判明した。船底に沈没につながるような致命的な傷はなく、座礁の痕なども確認されなかった。何らかの原因で船首方向から浸水が始まったとの見方が有力視されている。
元海上保安監で海上災害防止センター理事長の伊藤裕康氏は「高波で船首が上下にたたきつけられた衝撃で、甲板から船倉につながるハッチカバーが外れ、何度も波をかぶる中、船倉から海水がたまっていったと考えられる」と指摘する。
事故後、運航会社の杜撰(ずさん)な運営実態が次々と露見した。1管は運航会社「知床遊覧船」の桂田精一社長(59)の業務上過失致死容疑での立件も視野に入れる。
水難事故の立件には運航と事故との因果関係の立証が欠かせない。事故当日は知床半島一帯に強風注意報や波浪注意報が出ていた。地元の漁船は出漁を見合わせたが、桂田社長は出航前、豊田徳幸船長=当時(54)、死亡=と打ち合わせた上で、状況に応じて途中で引き返す条件付き運航を決断したとされる。
業務上過失致死傷事件に詳しい元検事の高井康行弁護士は「荒天が予想される中で出航させれば、何らかの理由で沈没する可能性があることは十分予見できる」と指摘。出航後に船長に連絡し、天候や海の状況なども確認しておらず、事故を回避する義務を尽くしたとはいえないという。
桂田社長は3年以上の実務経験という運航管理者の要件を満たしておらず、運航管理者として出航を判断する能力がなかったともいえる。だが、高井氏は「能力があったかどうかは関係なく、その立場にある者は、通常の運航管理者としての注意能力は持っているものとみなされる」との見方を示し、桂田社長に過失の責任を問うことは可能だとみている。