夢と時間奪われ、帰郷した女性「恨んでも恨みきれない」…歌手レッスン悪質勧誘

オーディションを口実にレッスンの契約を勧誘したなどとして、愛知県警は26日、男2人を特定商取引法違反容疑で逮捕した。同種の被害やトラブルは全国で相次いでおり、悪質な契約を交わされた人からは「夢を食い物にする商売は許せない」と憤りの声が上がる。
広島県に住む女性(28)は歌手を夢見て2016年に上京し、インターネットで見つけた歌手オーディションに応募した。東京・渋谷の会場で、プロデューサーを名乗る男性らの前でワンコーラスを歌って審査は終わり、1週間後に事務所に呼び出されて合格を告げられた。
「5000人が参加したがほぼ不合格だった」。担当者を名乗る男性はこう伝えた後、デビューするには有料レッスンを受ける必要があると説明した。合格なのになぜお金を払うのか――。そう尋ねると、「みな有料でレッスンを受けている」「今日決めないと合格は取り消す」「デビューは確約する」と畳みかけられ、やむなくレッスン代などとして計62万円を支払った。
だが、始まったレッスンは持参したカラオケの音源を流して歌うだけで、講師役の自称DJの女性は「言うことなし」と繰り返すばかり。不審に思い受講の中断と返金を求めると、事務所は「払い戻しはできない」と拒絶。ローンを組んで支払ったため返済に苦しみ、完済までに約3年を要した。
この事務所は悪質なオーディションをしたとして、東京都から18年に業務停止命令を受けた。だが、夢と貴重な時間を奪われて帰郷した女性は、「恨んでも恨みきれない」と訴える。
国民生活センターによると、芸能関係の契約トラブルを巡る相談は年間600~700件で推移し、今年度は今月25日時点で349件に上る。20歳代以下の若年層からの相談が7割近くを占め、同センターは「急な契約を迫られても、落ち着いて周囲に相談してほしい」と呼びかけている。