2013年12月に「餃子の王将」を展開する王将フードサービスの社長だった大東隆行さん=当時(72)=が射殺された事件で、京都府警は殺人と銃刀法違反の疑いで特定危険指定暴力団工藤会(北九州市)系組関係者の田中幸雄受刑者(56)の逮捕状を取った。同社は過去に創業家が絡む不適切な取引が判明している。府警は事件と工藤会との「接点」についても解明を急ぐ。
事件は13年12月19日午前5時45分ごろ発生。出勤した大東さんが京都市山科区の本社前駐車場で車を降りた直後、何者かに腹や胸を撃たれた。
現場付近でたばこの吸い殻が見つかり、付着物のDNA型が田中容疑者のものと一致した。銘柄は容疑者が普段吸っていたものと同じだった。現場から北東数キロの駐輪場に乗り捨てられたオートバイのハンドルからは銃を撃った際に残る「硝煙反応」が検出された。
田中容疑者は別の工藤会系の元組員らと共謀して、福岡市内で大手ゼネコン「大林組」の従業員ら3人が乗った乗用車を銃撃したとして18年6月に逮捕され、懲役10年とした20年11月の福岡高裁判決が確定している。
「九州の暴力団関係者」は以前から浮かんでいたが、ここにきて急展開した。元東京地検特捜部副部長で弁護士の若狭勝氏は「たばこの吸い殻が事件の直前に捨てられたものであると示すような新しい鑑定結果が出たことなどが考えられる」との見方を示す。
若狭氏は「硝煙反応を含めて状況証拠の積み重ねであり、容疑者が完全否認だった場合、有罪に持ち込むには警察や検察の丁寧な説明が求められるだろう」と指摘した。
16年に王将の第三者委員会が公表した調査報告書によると、同社は特定の企業グループ経営者らと1990年代半ばから約10年間で計約260億円に上る不適切な取引を続け、うち約200億円が流出、約170億円が未回収となった。米ハワイの土地建物や福岡市内のオフィスビルの購入、子会社を通じた巨額の貸し付けのほか、トラブル対応も依頼していた。
2000年に社長に就任した大東さんは関係解消に動き、13年11月に社内の調査報告書案をまとめていたが、すぐに回収された。事件が起きたのは約1カ月後だった。
工藤会は北九州市を拠点とする全国唯一の特定危険指定暴力団。福岡県では00年前後から飲食店や建設会社の関係者ら市民を狙った襲撃事件が相次ぎ、福岡県警は14年9月から同会に対する頂上作戦を展開した。
会トップの総裁、野村悟被告は21年8月、市民襲撃4事件に関与したとして福岡地裁で死刑判決を受け、控訴中。被害者側による損害賠償請求訴訟も相次ぎ、判決で野村被告らの責任が認められている。