外来スズメバチ本土来襲 「好物はミツバチ」養蜂場に脅威

中国南部や東南アジア原産で特定外来生物の「ツマアカスズメバチ」が今年に入り福岡県内で相次いで確認された。九州・山口ではこれまで単発での発見にとどまっていたが、今年は産卵する女王蜂が連続して見つかるなど状況が悪化。繁殖力が高く、一度定着すれば根絶は難しいとされており、専門家は「定着の一歩手前の段階で、速やかに巣の駆除を行う必要がある。悪影響が出てからでは遅い」と警鐘を鳴らしている。
「対馬を除けば、これまで見つかった地域では巣などが1、2例確認されただけだった。それに比べ今年はまとまった範囲で何十匹も働き蜂が見つかったうえ、巣も4、5個あると推定される。今までの事例とまったく異なる」。ツマアカスズメバチの調査を続ける九州大大学院の上野高敏准教授(昆虫学)は危機感を強める。
ツマアカスズメバチは国内では平成24年に長崎県の対馬で初確認され、27年~令和元年には九州・山口の5地域でも巣や個体が確認された。対馬では定着したが、その他の地域ではいずれも駆除され、本土への定着は阻止されていた。
ところが今年4月に福岡市東区、5月に隣接する福岡県久山町(ひさやままち)でそれぞれ女王蜂が発見され、上野氏の8月の調査でも久山町や隣接する篠栗町の計6カ所で働き蜂を延べ50匹以上確認。環境省が9月、周辺に約700個のトラップをしかけたところ、新たに約30匹が見つかった。
上野氏によると、ツマアカスズメバチは女王蜂が秋以降に巣わかれし、越冬して営巣する。このため、2匹の女王蜂の存在から分析すると、昨年すでに女王蜂が侵入して営巣に成功、次世代の女王蜂が分散した可能性があるという。
福岡市東区では実際に巣が発見され、環境省が10月、巣内の蜂ごと駆除した。ただ、ほかに巣が残っていた場合、来年以降に勢力が拡大する恐れがある。侵入経路はわかっていないが、環境省の担当者は「韓国などと往来のある港湾では侵入のリスクがある。引き続き監視に努める」と説明する。
対馬の攻防
ツマアカスズメバチはオオスズメバチよりも小ぶりで全体的に黒っぽく、脚の先が黄色いことが特徴。巣は比較的大きく、樹木の高い位置に作ることが多い。ミツバチを好んで捕食することから、定着すると養蜂業への影響が出ると考えられている。海外では韓国やヨーロッパで定着、生態系への影響が懸念されている。他のスズメバチに比べ毒性は強くないが、刺されるとアナフィラキシーショックで重篤な症状になることもある。
国内で定着した対馬では毎年大掛かりな駆除が繰り広げられている。年間に発見される巣は50~350個にも上り、樹上20メートルの高い位置に営巣することもあるため、高所作業車の活用や作業員が木に登るなどして駆除している。
対策費用は年間700万円で、高所での作業は危険も伴う。巣を発見するのが難しいことから、市はシステム会社などと連携し、ドローンや人工知能(AI)を活用する方法も開発中という。
対馬市自然共生課の神宮周作係長は「350個が見つかった年は駆除に手がまわらなかった。人口密集地でも巣を作るため、都市部に定着すると被害が広がる可能性もある。低密度の段階で把握できれば根絶できる可能性があり、市民を含め幅広い目で監視することが必要だ」と呼びかける。
遺伝子解析で侵入経路推定も
今後の分布拡大の推定には捕獲した個体の遺伝子解析も鍵を握る。解析を進める上野氏は「遺伝的な多様性をみれば、女王蜂が複数回交尾をしたかなどが分かる。遺伝的に多様であるほど一気に増える可能性がある」と指摘する。福岡県内で見つかった個体が対馬や韓国と同じタイプの遺伝子型かどうかで侵入経路も推定できるという。
この秋がツマアカスズメバチの本土への定着を許すかどうかの分岐点。上野氏や環境省などによる懸命の調査や研究が続く。(一居真由子)