落書き犯を報奨金付き「指名手配」 まんだらけ動画公開の是非

犯人の特定に結びつく情報の提供者に30万円-。交流サイト(SNS)でこんな投稿が話題となっている。書き込みの主は警察ではなく、古本販売大手まんだらけ(東京)。発端は10月、大阪市内の店舗で、何者かに落書きをされたことだった。同社は「泣き寝入りはしない」と犯行の一部始終が写った防犯カメラ映像も公開したが、こうした対応には批判的な声も上がる。正当な怒りによるものとはいえ、その行動は果たして許されるのか。
夜明け前、5分の犯行
10月22日午前4時半ごろ、大阪市浪速区の「まんだらけグランドカオス店」の防犯カメラに、黒い服に身を包んだ数人の集団が写しだされた。紺色の帽子を目深に被りマスクをつけた人物が、白いスプレー缶のようなものを左手に持ち、壁に向かって腕を大きく動かす。壁から少し離れて、仕上がりを確認するようなしぐさを見せると、残りの数人も代わる代わる壁に向かってスプレー塗料のようなものを吹き付け、一団は5分ほどで立ち去った。
数時間後、出勤した従業員が隣接するコインパーキングに面した外壁に、落書きを発見。英単語のようなものが、大人の手が届く範囲一面に白いスプレー塗料で描かれていた。
店があるのは、関西のサブカルチャーの聖地として知られる大阪・日本橋。同社の担当者は「若い人の公共の場での芸術活動はある程度理解しているが、誰の了解もなく作品を勝手に披露することは不快だ」と怒りを隠さない。
有力情報提供者に謝礼も
所有者に無断で建物に落書きする行為は建造物損壊罪にあたる犯罪だ。同社は、その日のうちに大阪府警浪速署に被害届を提出。同時に、犯人特定に向けた独自の動きを始めた。
ホームページで事件について公表し、犯人側に警察や店舗に説明に出向くように呼び掛けた。しかし、約1週間が過ぎても犯人が名乗り出ることはなく、動画投稿サイトでの防犯カメラ映像の公開に踏み切った。
公開した映像は4分余りで、帽子やマスクなどで犯人の表情は識別できないが、手元や服装ははっきりと写っている。同社は犯人の特定につながる有力情報の提供者には30万円の謝礼金を支払うことを決め、SNSで告知。情報提供専用の電話窓口も設置した。
凶悪な未解決事件に関する有力な情報には警察庁が報奨金を支払う制度があるが、民間の被害者が独自に設けるのは異例だ。担当者は「世の中には落書きや万引被害に遭っている人が大勢いるのに、犯罪として重く捉えられていない」と指摘。「被害者は黙っていないで声を上げることが大事だと分かってもらいたかった」と説明する。
同社は犯人の特定につながった場合、本人たちに壁の塗り直しをさせ、業者に依頼する場合も費用負担を求めるという。
「〝私刑〟のような感じ」
映像が公開されると、インターネット上には賛否が渦巻いた。「公開して犯人を捜したいというのは普通の考え」などの肯定的な意見もある一方、「〝私刑〟のような感じもする」「ルールを作らないと無罪の人間を社会的に抹殺することもできる」などの反対や慎重な姿勢を求める書き込みもみられた。
同社では平成26年、都内の店舗から25万円相当のブリキ製人形が盗まれた際にも防犯カメラに写った犯人の顔写真の公開を検討。捜査への支障を懸念した警視庁から要請で取りやめた経緯があるが、担当者は「犯罪には毅然(きぜん)とした対応を取るという会社の姿勢は変わっていない」と強調する。
ただ、防犯カメラの映像を公開すること自体が違法とされる恐れもある。同社が公開した動画では、帽子などで顔が隠れており個人の特定は難しいとみられるが、近畿大法学部の辻本典央(のりお)教授(刑法)は「個人が特定できる状態で犯人と断定して公開すれば、名誉毀損(きそん)罪にあたる可能性が高い」と指摘。「店側の気持ちは理解できるが、インターネットは不特定多数が閲覧する。公開は慎重に判断するべきだったのではないか」と話している。(小川恵理子)