医師の古川聡・宇宙飛行士(58)が統括責任者を務めた医学研究に、重大な不適切行為があった問題。宇宙航空研究開発機構(JAXA)の佐々木宏理事らが25日に東京都内で記者会見し、「協力いただいた研究対象者の善意を裏切る結果となった」と謝罪した。
一方で、古川飛行士自身は記者会見に出席せず、JAXAの報告書では、古川飛行士の名前は伏せられた。2023年ごろに予定している古川飛行士の国際宇宙ステーションの長期滞在も変更しないとした。
現役の宇宙飛行士が関わった前例のない不祥事で、古川飛行士自身の責任のあり方が問われそうだ。
JAXAはこの日、32ページにわたる報告書を公表した。それによると、研究で存在しないデータを作成したり、評価をわざと書き換えたりする行為について「研究者一般や社会の感覚からすれば、捏造(ねつぞう)や改ざんというべき行為」と認めた。
一方でJAXAは、学術論文として発表されていないことを理由に「データに基づいた科学的な公表はしていない」とし、研究不正には該当しないと説明した。
さらにJAXAは、古川飛行士は管理監督責任があるものの、あくまで指導的な立場であり、こうした不適切な行為には直接関わっていない、と説明。関与していたのは他の2人の研究者だとした。
佐々木理事は「古川飛行士は、宇宙飛行士の仕事が大変で、研究に十分な時間を割けなかった」と釈明した。不適切な行為への関与を認定した2人については「仕事として専念できないくらい忙しかった」と説明した。
この研究には一般の被験者42人が参加した。今回の研究に投じられた予算は計1億9000万円で、うち、文部科学省の科学研究費補助金(科研費)は約9600万円を占める。これについて佐々木理事は「国民の負託に応えることができなかった。計画自体に無理があった」と述べた。【鳥井真平、垂水友里香】
JAXA報告書の概要
・存在しないデータが作成されていた。
・データが多数書き換えられ信頼性を損ねた。
・精神面談の評価手法の妥当性を未確認のまま研究が進められた。
・研究ノートの作成が不十分。
・理事長の決定を得た記録がない。
・被験者へのインフォームドコンセント(十分な説明に基づく同意)の一部に不備があった。